経営の神様が一発で見抜いた「絶対に勝負に負けるタイプ」の特徴
● 稲盛が見抜いた「絶対に勝負に負けるタイプ」の特徴 トヨタの生産方式の本質は、現場で働くすべての人が改善の機会を見つけ、即座に対応できるような仕組みを持っていることである。これこそが、トヨタの品質向上やコスト削減を支える根幹となっていた。 理論が進化し、現実の多様な状況に適応するためには、成功事例から学ぶだけでなく、失敗からも学ぶことが不可欠である。 失敗事例は、理論の適用条件を理解するための貴重な手がかりを提供する。どのような状況で理論が機能し、どのような状況で機能しないのかを明確にすることで、理論はより信頼性が高まり、実務において役立つものとなる。 例えば飛行機の設計に関する研究では、初期段階では鳥の翼や羽を真似ることに重点が置かれた。しかし、人間が鳥のように羽をつけて飛ぼうとしても失敗することが多かった。 失敗から学び、空気力学や揚力の仕組みが解明されるにつれて、飛行機の設計は大きく進化し、今日のような安定した航空機の開発が可能になった。理論の進化は失敗と学びの繰り返しの中で進むのである。 稲盛和夫氏が提唱したアメーバ経営やフィロソフィー哲学は、多くの企業で注目を集めた。一方、表面的に導入しただけで成功を期待し、失敗に至った企業も少なくない。 ある中小企業がアメーバ経営を導入し、組織を小さな単位に分けて運営を試みた。ところが、社員数が少ないために各アメーバ間の競争意識や協力関係が十分に機能せず、かえって組織のまとまりが失われた。 また、フィロソフィー哲学を取り入れたものの、経営者自身が理念を深く理解せず、社員への浸透も不十分だった企業では、社員の混乱やモチベーションの低下を招いた。 ルーセント・テクノロジーズの事例は、チームを小さくすればいいという意味ではアメーバ経営に近いものがある。そして、失敗したわけである。 稲盛氏は経営について、こう考えていたという。 《稲盛は常に常識にこだわるなと言う。定石も良く覚えこめば常識となる。将棋では名人に定石なしと言われているように、名人ともなれば定石にこだわらない。定石破りの新手を発見しなければ勝負に勝てない。この新手は新製品の開発のようなもので、新製品の開発がなければ企業の繁栄は望めないのと同じである》(青山正次著「心の京セラ 二十年」) 経営において理論が重要なのは間違いない。ただ、それだけでは十分ではない。稲盛氏が一目で見抜いた「絶対に勝負に負けるタイプ」の特徴とは、まさにこの堅物で、常識ばかりを信じるリーダーたちのことだ。 理論を基盤としつつも、それに縛られない柔軟な思考と創造性を持つことが、企業の繁栄につながるのである。
小倉健一