BTS・RMの「チームプレイ」を考察、韓国のオルタナティブな才能がソロ傑作に集った意義
JNKYRD
JNKYRDは2014年より活動しているソロ・ミュージシャンでありプロデューサーだ。ソロでは10作以上のシングルと3作のEPを発表しているほか、日本でも人気のバンド、hyukoh(ヒョゴ)と親交が深く、2017年に発表された『23』からはアルバム制作に関与するようになり、2020年のアルバム『through love』のツアーでは健康上の問題でツアーに参加できなかったメンバー、イ・インウの代わりにドラムを担当した。最近の彼の仕事の中で特に素晴らしかったのがシンガーソングライター、Dajungの「Unlearn」のプロデュースだ。一つのギター・リフをループさせるだけのシンプルな構成ながら、ボーカルやギターにかかった分厚いリヴァーブが効果的で、楽曲に温かく幻想的な雰囲気を与えていた。歌声や生楽器の音響、コンピューターやシンセサイザーのようなツールを実験的に活用して見せる彼の手腕は、いつも新鮮で可能性にあふれている。 RMはJNKYRDを先述のSan Yawnに次ぐアルバム全体のセカンド・プロデューサーとして起用した。大衆が聴きやすい様式に合わせることよりも、RMと彼がコラボしたミュージシャンたちが思うまま自由に作りこんだ、本作のエクスペリメンタルな作風を考えると、絶妙な人選だ。
Oh Hyuk, Lee In-woo, Lim Hyun-jae(hyukoh)
ここで改めて説明する必要もないほど、2010年代後半にはここ日本でも人気が定着していた4人組ロック・バンド、hyukohだが、2020年に発表したアルバム『through love』とその直後のワールド・ツアーを最後に、バンドは事実上の活動休止状態に。近年はCIFIKA(シフィカ)、yaeji(イェジ)らとのコラボシングルを発表していたボーカル・ギターのオ・ヒョクや、ハードコアな3人組バンド、bongjeingan(ボンジェインガン)で活発に活動するギターのイム・ヒョンジェなどメンバー個々の活動がメインだったが、最近、バンドのアート・ディレクター、キム・イェヨンが彼らについて「カムバックのためのウォームアップをしている」とSNSに投稿したり、メンバーの知人の結婚式で久々にバンド4人が集まって演奏する姿を公開したりと、ファンの間でカムバックへの期待が高まっている。 そんなヒョゴの面々は、オ・ヒョクが「Come Back to Me」の作曲やギター演奏とバック・ボーカルに、ドラムのイ・インウが「Nuts」「Domodachi」など3曲のドラム演奏、さらにギターのイム・ヒョンジェは「LOST!」のギター演奏でクレジットされている。特にオ・ヒョクが落日飛車(Sunset Rollercoaster)のKuoと共作し、イ・インウがドラムで参加している「Come back to me」でのRMの気怠くつぶやくようなボーカルは、オ・ヒョクの歌唱法そのものを想起させるし、全体的な陰鬱なムードそのものもhyukohの『through love』、落日飛車とオ・ヒョクがコラボした「Candlelight」と共有していると思った。 ちなみに本作で「Heaven」「Around the world in a day with Moses Sumney」のレコーディングに参加したnever young beachは、hyukohとは以前より対バンライブなどで親交があるし、落日飛車ともコラボ・シングル「Impossible Isle」を発表するなど、本作参加のミュージシャンたちとの関係は今に始まったものではない。こうした東アジアのインディ・シーンの繋がりが本作の豊かな音楽性に寄与していることは重要なポイントだろう。