波紋を広げた石破首相の外交・安保構想、米国からは冷ややかな視線 立憲はトラウマ背に現実路線
アジア版NATO「非常に難しい」
バイデン政権は中国との戦略的競争を見据え、同盟国との個別の連携だけでなく、同盟国同士の結びつきを強めるのに腐心してきた。日米を中核として、豪州、フィリピン、韓国との3カ国協力、豪印との4カ国協力の枠組み「クアッド」の連携を強化。米国の有識者やメディアでも「アジア版NATO」の可能性は話題にはなってきた。 しかし、米政府は一貫して「軍事同盟をつくる意図はない」と強調している。米シンクタンク「ランド研究所」国家安全保障研究部のジェフリー・ホーナン日本部長は毎日新聞の取材に「NATO加盟国と異なり、インド太平洋地域の各国には共通の脅威認識も相互防衛の意思もない。例えば、日本と豪州、日本と韓国でも対中国の脅威認識は異なる。大半の専門家は、アジア版NATOは非常に難しいと考えている」と指摘する。 首相が連携相手に想定する国からも否定的な声が上がる。インドのジャイシャンカル外相は10月1日、「インドはどの国とも条約上の同盟国になったことはない。我々には(日本とは)異なる歴史、異なるアプローチの方法がある」と指摘。カナダのブレア国防相も9月の米ブルームバーグ通信のインタビューで「インド太平洋の戦略的競争への対応は、NATOとは異なる形になるだろう」と述べた。
日米間に摩擦も
一方、米政府は、首相のもう一つの持論であり、野党第1党の立憲民主党も訴える「日米地位協定の改定」については慎重に出方をうかがっている。国務省や国防総省に改定協議に応じる用意があるか尋ねたが、いずれも回答を避けた。 ホーナン氏は「米軍人が関与した疑いのある事件の司法権の問題が念頭になるのなら、米政府が議論に応じるとは思えない。米国は、どの国とも改定の協議には消極的で、改定を強硬に主張すれば、日米間に摩擦を生むだろう」と指摘する。 元米政府高官も「地位協定の見直しを巡る議論は常に難しい。やるからには相応の目的が必要であり、例えば南西諸島での米軍と自衛隊の基地の共同利用を促進するような改定なら価値がある」との見方を示す。