波紋を広げた石破首相の外交・安保構想、米国からは冷ややかな視線 立憲はトラウマ背に現実路線
異彩を放つ「アジア版NATO」構想
多国間安保体制としての「アジア版NATO」構想も異彩を放つ。総裁選では、ロシアに侵攻されたウクライナが欧州諸国の相互防衛システムであるNATOの加盟国でなかったために抑止が破れたとの持論を展開。「アジアにそのようなシステムがないことは極めて問題だと20年以上前から思っている」と訴えた。 首相は、日米同盟や米・オーストラリア・ニュージーランド3国間の相互安全保障条約(ANZUS)など、既存の枠組みを統合して「アジア版NATO」を実現していく道筋も想定している。しかし、長年の「非主流派生活」のため、党内基盤は盤石ではない。構想が内外に波紋を広げる中、首相が持論を「封印」する場面も増えている。 10月9日の衆院解散を受けた記者会見。「石破らしさ」が阻まれている理由を問われた首相は「自民の中できちんと議論し、コンセンサスを得なければならない」とした上で、こう強調した。「党内にいろんな考え方がある。なんで自分の意見をわかってくれないんだという人がいないように丁寧に丁寧にやっていきたい」
連携先は冷ややか
コンセンサスを得るのは党内だけではない。中国に対する警戒感を強める国々でも有事の相互防衛を許容するまで国民的な理解が得られているとは言えない。そもそも、欧州に比べ、アジア各国は一枚岩ではなく、急速に力を増す中国に対する距離感にも違いがある。 首相の主張は米国からも冷ややかな視線を浴びている。従来は米国に「アジアの実情に合った連携網作り」を助言する役回りだった日本だが、逆に米国から「現実離れ」(米元高官)を指摘される皮肉な状況となっている。 「米国はアジア版NATOをつくろうとしているのではない」。バイデン米大統領の側近、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は今年7月の安保関連のイベントでこう強調した。自民党総裁選のさなかには、クリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当)が首相の構想について「議論するのも時期尚早」とくぎを刺す場面があった。