「稼げる、収益を考えられる、クラブに還元できる」“小笠原満男・命”だった少女が欧州クラブでバリバリ活躍する敏腕広報に成長を遂げるまで【現地発】
「サッカーの仕事はクラブやファンが主体であるべき」
「ベルギーのことはまったく知らないけれど、ヨーロッパでまたサッカーの仕事ができるので、ありがたい話だと思いました」 心がけたのは、現地の広報の意見をリスペクトすること。 「『サッカーの仕事はクラブやファンが主体であるべき』という個人的な哲学があります。そこを壊してまで経営するものではないし、私も広報としてそこに気をつけている。しかも私はベルギーに住んでないし、文化も分かってないから、1年目は彼らのことを知ることに務めた」 現地の広報が「できない。それはベルギーでは求められてない」と言ったことには「そうなんだ」と答えるようにした。しかし、やがて「意識の高いベルギーのクラブは、やってるじゃないか。実は、当時のスタッフはやる気がないだけじゃないか」と気付いた。 「『良いと思うことをやっていこう』というACAFPの思考に合わないスタッフは自然とデインズを去っていった。今いるメンバーはすごく良いマインドを持ってます。クラブのソーシャルメディアはローカルのファンを増やすこともひとつですが、それだけは広がりが生まれずフォロワーが増えない。小手先の技になりますが、フォロワーがいっぱいいるベルギー・プロリーグのアカウントやベルギーサッカー協会のアカウントと“会話”しないと、アルゴリズム上、デインズのフォロワーは増えない。 ベルギー代表が良い結果を残したら、『おめでとう』とポストすればいい。そんなことすら、当時のスタッフはやりたがらなかった。今はムスクロンの広報だった女性が豊富な経験を活かして頑張ってます」 就職活動のとき、DAZNで働いていたとき――。3~4年周期で、金子には「スペインに行かなくては」という思いで頭がいっぱいになる。しかし、幸い、今の彼女にはマラガ近郊のクラブ、トレモリーノスでの仕事がある。 「最近は月1回のペースでトレモリーノスへ通ってます。今季から向井章人選手が加わりました。彼はヴィッセル神戸の育成からトップチームに昇格して、今治などでプレーしてからスペインに渡って4年半になる選手なんです。トレモリーノスはアマチュアクラブのボランティア団体みたいでした。しかし、この半年で人を入れ替えながらだいぶ整ってきました。広報にマドリードの大手メディアで働いていた人に来てもらい、ソーシャルメディアチームは2、3人にインターン生から始めてもらってます」 満男・命の少女は、DAZNで揉まれ、カディスで独り立ちし、デインズで知見を広げ、トレモリーノスで現場を指揮する立場になった。記者志望だったはずが、今や広報のエキスパートだ。 「DAZNでやってきたこと、カディスでやってきたこと、今やっていること、すべてがつながってます。ずっと私は広報の分野でやってきたので、そこを突き詰めたい。DAZNではメディアサイド、欧州のクラブでは経営サイドを間近でみせてもらい、『サッカー界で稼ぐのは大変だ』と思いました。だから広報も『コンテンツを広めます』という意識だけではダメなのではと感じます。記者会見を回したり、ソーシャルメディアを運用できるのは当然のこととして、そのツールを使っていかに収益をクラブにもたらすのか。稼げる広報、収益を考えられる広報、クラブに還元できる広報――。そんなノウハウを付けていきたい」 自分が楽しまないと広報は良いコンテンツを作れない――。その信念とともに、金子は欧州のサッカー業界に身を置いている。 <文中敬称略> 取材・文●中田 徹
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