「稼げる、収益を考えられる、クラブに還元できる」“小笠原満男・命”だった少女が欧州クラブでバリバリ活躍する敏腕広報に成長を遂げるまで【現地発】
充実していたスペインでの一年。そしてオランダ、ベルギーへ
「私はずっと広報畑だから、できることはソーシャルメディアの運用。そこで日本語のソーシャルメディアをやっているクラブの一覧表を作ってみた。バルセロナ、レアル・マドリー、セビージャといった錚々たるクラブが日本語のアカウントを持っているなか、カディスも2019年から日本語で情報を発信していた」 サッカー好きの日本人有志4人によるカディスの日本語メディアチーム。その環に金子は加わった。スペイン語ができるのは金子ひとりだけ。それまでの彼らは英語でスペイン本国のカディス広報とコミュニケーションをとっていた。 「こうして私に『本国との窓口をやってほしい』となり、広報部と『こういうコンテンツを出していいか?』といったやり取りをするようになり、カディスのスタッフたちとのコネククションができた。『この縁はいいな』と思ってスペインに行く決心がついた」 3年7か月働いたDAZNを辞めるとき、上司が「契約をフリーランサーに切り替えて、DAZNを手伝いながらスペインで働けば?」と提案してくれ、現地での生活費はどうにかなった。 カディスの広報部長との面接で、金子は精一杯のスペイン語でアピールした。 「DAZNジャパンで働いてました。ずっとスペインとサッカーが大好きで、私にとってラ・リーガは憧れです。人生でいつか、この国で働きたいと思って生きてきました!」 スペインにもDAZNはあるから彼らの理解も早く、「スポーツの職歴があるんだね。明日からオフィスに来なよ」ということになり、手際良く労働契約書を作ってくれた。50人いるスタッフの中で外国人は金子ただひとりだった。 「今、それがなぜ可能だったか振り返ると、ちょうどカディスの広報が国際化を推し進めていた時期と重なったからでした」 スペインリーグには、ソーシャルメディアの分配金を各クラブに渡す制度があるのだという。フォロワー数やエンゲージメント数などの指標を元にランキングを作り、これに基づいてお金を各クラブに分配するのだ。 「成績やテレビの視聴者数ではビッグクラブに勝てないけれど、ソーシャルメディアなら小さなクラブも頑張れる。カディスは最高5位まで行ったんですよ! スペイン国内で勝負してたら、ビッグクラブには勝てない。そこでカディスはソーシャルメディアの国際化を進め、当時は13言語でソーシャルメディアを運用してたんです」 各国語の担当者のリクルーティングも金子の仕事になった。 「カディスには英語のできる人が少ないから、英語は私にとって強みになった。ネットを使って、私がいろんな人材を引っ張り込んで、その言語でインタビューをしてもらったりして、スペイン語外でも包括的に仕事をさせてもらいました」 クラブの応援歌をおしゃれに歌う、カディス出身のバンド『デテルヘンテ・リキード』に「私はカディスの日本語担当なんですが、コラボレーションして何かコンテンツを作りませんか?」とメッセージを送ったところ盛り上がり、「応援歌に日本語を混ぜて歌ってみようぜ」とレコーディングにこぎ着けた。これをカディスの日本語アカウントにポストしたところ、「カディスのバンドがなぜか日本語で歌ってる」と地元紙『ディアリオ・デ・カディス』に取り上げられた。 「カディスではほとんど予算がなかったから、タダで仕込めることを考えた。スペイン人は地元への思いが強いから、サッカー界には『地元のためなら!』と協力してくれる人がいっぱいいるんです」 ワーキングホリデーを利用してスペインに渡ったこともあり、カディスにいたのは1年間だった。次に金子はオランダに向かった。 「私、結婚2年目でスペインに飛び出しちゃったんで旦那とは離れて暮らしてました。しかし、彼もサッカーが好きで、また欧州での暮らしへ挑戦する思いが強く、私がスペインに行った半年後にオランダでビジネスを立ち上げたんです」 デインズ(ベルギー)とトレモリーノス(スペイン)を保有するACAフットボール・パートナーズ(小野寛幸CEO。シンガポール。以下ACAFP)は国際経験豊富で、サッカーの知見に秀でた広報を探していた。「カディスの広報に日本人がいる」と聞きつけたACAFPのメンバーは、金子と会うために現地に飛んだ。 「これから夫のいるオランダに引っ越します。そこで何をするか、何も考えてません」 「オランダに住むのなら、ベルギーに通うこともできます。ご興味があればどうですか?」 この誘いを金子は快諾した。
【関連記事】
- 「日本人ばっかり出して」「弱いじゃないか!」ファンが不満を抱いたSTVVが100周年で挑む“ユース育成改革”の全容~立石敬之CEOに訊く【現地発】
- 「欧州組を呼ぶ意味がよく分かった」NEC小川航基が森保ジャパンから得た“リアルな刺激”「自分も食い込んでいきたい」【現地発】
- 「日本をサッカーの指導者大国にする」オランダで切磋琢磨する“コーチのコーチ”が波瀾万丈キャリアを経て描く壮大なるビジョン【現地発】
- 「あそこの大学に行け」「就職しろ」の日本を飛び出して24年。川合慶太郎がオランダで築き上げた“Jドリーム”の存在意義【現地発】
- 「ワンランク上になれた」プロ1年目のオランダで正守護神を張った20歳・長田澪が明かす“進化の舞台裏”。「柔道をしていたのが良かった」【独占取材】