ハッシュパレットをアプトスに売却──疑問点や背景を吉田CEOに聞く【独占インタビュー】
力不足、グローバル競争に求められる数億ドルの投資は困難
──国内IEOの第1号案件を手がけたハッシュパレットが海外チェーンの子会社になり、パレットトークンがなくなってしまうことに対してはネガティブな声もあがっている。 チェーンの研究を長く行ってきたが、力不足を感じた。今年4月以降に「THE LAND エルフの森」の利用拡大に伴うチェーンへの負荷増加を通じて、万博などの社会インフラを支えるチェーンとしての性能不足を実感した。パレットチェーンとして大型の技術アップデートを行っていく方向性も模索したが、最終的に事業譲渡をするような形になってしまったことは、トークン保有者の期待に応えられず、大変申し訳なく思っている。 レイヤー1/レイヤー2のブロックチェーンの世界は、黎明期から成熟期に入り、勝ち筋も一定のパターンができている。一番重要なのは開発者を惹きつけていくことだ。では、どうすればグローバルトップレベルの開発者を惹きつけ、成長する経済圏を作れるか。チェーンの評価は、技術的差別化、TVL(Total Value Locked)規模、ユーザー規模の3項目で構成されると考えている。それぞれの項目は影響し合うが、最低2つ以上の項目で優位性を確立することが重要になると考えている。 技術的差別化は、いまや数億ドル単位の先行投資が必要だ。例えばアプトスは、旧フェイスブックでリブラ/ディエム(Libra/Diem)を開発していた時代からの技術的蓄積に加えて、4億ドル以上の資金調達を行って技術開発に投資している。我々が単独で同レベルの投資を行うことは難しいとの認識だ。 TVL規模では、DeFi(分散型金融)関連サービスが重要なグロースドライバーとなっているが、パレットチェーンはスタート以来、DeFi関連のサービスをエコシステムの中に認めてこなかった。日本国内ではDeFiに関する法的論点の整理が進んでおらず、違法行為になってしまう懸念があったからだ。その代わりとしてGameFiに取り組んだが、チェーンのTVLを十分に拡大できるレベルの新規流入を作り出せるような成功には至らなかった。 これらを踏まえると、ユーザー規模において、大阪・関西万博を通じて優位性を確立できても、残りの2項目のどちらかで優位性を確立して流通時価総額でグローバル上位のチェーンを目指すことのハードルは高い。チェーンアップデートを行ったとしても勝ち筋が不明確だと考えた。 もう1つ、特定の国・地域を軸としたチェーンが優位性を持つという仮説は否定されつつあると考えている。パレットチェーンを開発した2020~21年頃は、特定の国・地域に根差したエコシステムを差別化としたチェーンの可能性が世界各地で議論された。今年に入って、ハッシュパレット創業以来、ベンチマークとしてきたフィンシアとクレイトンが合併してリブランディングし、拠点もUAEに移したことは我々にとって衝撃的なニュースだった。グローバル規模でチェーン競争が激化している今、特定の地域にフォーカスする戦い方は難しい。チェーンビジネスにおいてグローバルでの競争力の有無が常に問われる市場環境になっている。 勝ち筋が明確でない状況で単独で成長していくより、グローバルトップクラスのチェーンと統合することで日本のユーザーと開発者により良いサービスを提供し、日本と世界のWeb3エコシステムの融合とWeb3の社会実装を進めることができると考え、今回の結論に至った。 ──ハッシュパレットとして2件目、国内5例目のIEOだったエルフトークン(ELF)も今回、アプトスに移行することになった。エルフトークンは厳しい状況にあったようだが。 エルフトークンのパフォーマンスに関しては非常に申し訳なく思っている。DeFiの構築が難しいパレットチェーン上で、多くの人にプレイしてもらえるゲームを通して新規流入を増やし、TVLを拡大していくことを期待したが、IEOプロセスにおけるトラブルやリリース後の度重なるバグなどで、トークン価格を巡航軌道に乗せることができなかった。今はシステムも改良が進んでいる。巨大なアプトスのゲームエコシステムの中で、グローバルマーケットへの道を歩むことは、望ましい結果につながると考えている。