動画や要約されたコンテンツを見て、「自分は教養がある」と思い込む――まさにゆでガエル状態。気付いた頃には搾取される側になっているというわけです。 　名前だけ知っていればいい、概要だけ知っていればいいと考えて暗記するだけの教養は、身にならない栄養だけを摂っているようなものです。 　例えば、私が1時間の講演を行っても、120％理解できる人と10％しか理解できない人がいるということです。勉強に投資した時間は同じなのに、得たものの大きさがまるで違うのです。 　豊かな環境にいても、根がひょろひょろの状態では吸収できる栄養も少なく、葉っぱが生い茂らないまま。葉っぱを紙幣に置き換えてみると、それがどんなに損であるかが分かるでしょう。読解力のなさが、貧困につながることをイメージできると思います。 ●　タイパを重視する人が 見逃している本質 　Amazonで売れている本のランキングを見ると、「効率の良い○○○」や「○○○の効率化大全」など、どのように時間を有効に使えるかばかりが重要視されています。 　ですが、果たして時間をかけない、“タイパが良い”ことが本当に賢いといえるでしょうか。時間を短縮できるのは間違いないかもしれませんが、“有効活用“できているかどうかは、また別の問題だと思います。 　得られたものがなければ、効率が良いとは言えないからです。効率とは、消費したエネルギーに対する生産量。つまり、かけた時間で得られた対価の大きさです。効率化を求めるあまり、本当の意味で教養が身に付いていなければ、結果的に非効率なのです。

　「難しい内容の契約書を長くして分かりづらくすれば、不利な条件があってもどうせ気付かないだろう」と悪い人が考えたとしても、読解力がない人は本当に読まずにサインをして搾取されてしまいます。 　「読解力がない」とは、極端にいうと「この先は危険」という看板の文字が読めないようなものです。最悪の場合、命の危険だってあるでしょう。 　テクノロジーが進化して、何でもタイパや効率という言葉で片づけられがちな現代。さまざまなことが便利になる一方で、一次情報に触れる機会は減っています。「誰かがうまく要約してくれた情報」に囲まれている状況は、必ずしも豊かさとは比例しないのです。 　もし今、皆さんが教養のある賢い人間になりたいと本当に思っているのであれば、手軽に検索できるスマートフォンを一度置き、図書館に行って本を読んでみてはいかがでしょうか。あえて、手間のかかる方法で自ら情報源に触れることは、非常に大切だからです。