【報知映画賞】石原さとみ、新人賞以来21年ぶり受賞に「奇跡的な縁を感じる」母親役好演で主演女優賞
今年度の映画賞レースの幕開けとなる「第49回報知映画賞」の各賞が25日、発表された。主演女優賞は、「ミッシング」(吉田恵輔監督)の石原さとみ(37)が受賞した。一昨年に第1子出産を発表後初の演技で、娘を失った母親役を体当たりで演じ、新境地を切り開いた。報知映画賞は2003年に「わたしのグランパ」(東陽一監督)で新人賞を受賞して以来、21年ぶり。映画賞の主演女優賞は初めてで、「新人賞、主演女優賞と2つの区切りで報知映画賞に呼ばれ、奇跡的な縁を感じる」と目を細めた。 【画像】「報知映画賞」受賞者一覧! 胸躍る思いが靴音に響くかのように、石原の足取りは軽かった。取材冒頭、所属事務所のスタッフに祝福されると、「ありがとうございます」とグータッチし、笑みもこぼれた。 吉報を耳にした時のことを「私の中で報知映画賞はすごく特別な賞。喜びが体に染み渡った」と振り返る。「芸能界に入って初の賞をいただいたのが報知映画賞の新人賞。映画賞で初の主演女優賞をいただいたのが今回。初を2度もくださった」 21年前、過去の受賞者リストを見た時は、無邪気に「知っている名前ばかり!」とはしゃいだ。今回も改めてリストを確認した。「ずっと見てきて、憧れてきた人ばかり。小さい頃、(受賞者出演作の)セリフを友達と覚え合って遊んだ」。名優たちの名前を指でなぞり、賞の重みと喜びをかみ締めた。 2002年に芸能界入りし、翌年にはNHK連続テレビ小説「てるてる家族」のヒロインを務めた。CMにも多数起用され、人気タレントの地位を確立したが、女優としての焦燥感は募った。「器用さ、効率、技術は上がったけど、どこか自分は受け身だった」 世界を変えてくれたのが、吉田監督だった。ギリギリの状況に追い込まれた人物を生々しく表現し、“人間描写の鬼”と評される個性派監督に「私を壊してほしい」と、7年前に出演を直談判した。 「もっと刺激を求めたい、成長したい、新しい自分を知りたいという欲求があった。でも、そんな私を求めてくれる人はいない。だから、自分で求めに行った」 吉田監督との初対面では「石原さんは華があるから苦手」と断られた。そこから3年音信不通だったが、監督から「脚本を書きました」と連絡があり、石原の出産を待って撮影開始。娘の失踪事件をきっかけに、さまざまな情報に翻弄(ほんろう)されていく母親を演じた。産後初の演技。母になったからこその恐怖があった。 「我が子が消えたら、尋常ならざる感情になってしまう―。出産を経て、まざまざと分かってしまった。だから怖くて台本のページがめくれなかった」。心の安定剤は役づくり。壊れていく母を表現すべく、髪はシャンプーではなくボディーソープで洗ってボサボサにし、メイクも薄くした。リップクリームは使わず、唇のささくれは歯でかみちぎった。「本当にあたふたしてるからリアリティーがある」と監督も絶賛。石原も「本当のお芝居を学べた」と手応えを感じた。 「今回の賞で役者としてやっとスタートラインに立てた。初めて映画界に入った感覚。再びお仕事にまい進するだけ」。役者としての第2章を軽やかに踏み出した。(増田 寛) ◆2003年の石原 菅原文太さんと共演し、新人賞を受賞した「わたしのグランパ」(東陽一監督)は芸能界入りして初めての仕事。表彰式では「母が吉永小百合さんの大ファンなので、いつか共演できたらうれしい」と話した。同年度のブルーリボン賞新人賞、日本アカデミー賞新人俳優賞など6つの新人賞を受賞するなど、ブレイクのきっかけに。吉永とも翌年撮影の「北の零年」(05年公開、行定勲監督)で初共演を果たした。 ◆ミッシング 娘の失踪事件から3か月。母・沙織里(石原)は、地元テレビ局の取材を受けるなどして懸命に探し続けるが、夫・豊(青木崇高)との温度差や、SNSの“育児放棄の母”という誹謗(ひぼう)中傷に、次第に心が壊れていく。 ◆石原 さとみ(いしはら・さとみ)1986年12月24日、東京都生まれ。37歳。2002年、ホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリを獲得し芸能界入り。03年、TBS系「きみはペット」で連ドラ初出演。今年公開の作品では「ラストマイル」にも出演。20年に結婚、22年に第1子出産を公表。 ▼主演女優賞 選考経過 杉咲花、奈緒、河合優実、江口のりこを推す声もあり混戦模様となったが、1回目投票で石原に。「神は女優の内部に宿っていた。奇跡の演技に脱帽」(見城)、「華のある美貌(びぼう)というイメージを覆す、落差の大きい役どころを演じ切った」(荒木) ◆選考委員 荒木久文(映画評論家)、木村直子(読売新聞文化部映画担当)、見城徹(株式会社幻冬舎代表取締役社長)、藤田晋(株式会社サイバーエージェント代表取締役)、松本志のぶ(フリーアナウンサー)、YOU(タレント)、LiLiCo(映画コメンテーター)、渡辺祥子(映画評論家)の各氏(五十音順)と報知新聞映画担当。
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