料金据え置きで30GBに増量した「ahamo」に業界激震、競合は対抗策を打てるのか
2024年も10月に入り、テレビの情報番組では食料品や日用品だけでなく、電気代や郵便料金などさまざまなモノやサービスの値上げのニュースが相次いでなされている。だがその一方で、携帯電話業界では業界全体に非常に大きな影響を与える、実質的な大幅値下げをしたサービスがある。 【画像】UQ mobileの「コミコミプラン」 ■実質的な大幅値下げとなったNTTドコモ「ahamo」 それはNTTドコモの「ahamo」だ。ahamoといえば、契約やサポートなどをオンラインに限定することで、月額2,970円という低価格ながら、20GBのデータ通信量と5分間の定額通話が利用できるリーズナブルなプランとして知られていた。だがNTTドコモは、2024年10月1日からその内容を変更。月額料金は据え置いたまま、利用可能な通信量を30GBに増量したのである。 料金が変わらず通信量が1.5倍となったことで、ahamoのお得感が一気に高まったことは間違いないだろう。30GBの通信量はもちろんテザリングや海外ローミングでも全て利用できるし、「ahamo大盛り」「ahamoポイ活」といったオプションを追加した場合も従来の100GBから10GB増え、110GBの通信量が利用できることになる。 実は、NTTドコモがahamoの大幅増量を打ち出したのは、先月の9月12日のこと。その時は記者発表会を実施するわけでもなく、大規模なアピールがなされたわけでもなかったのだが、この施策はNTTドコモがahamoを発表した時と同様、業界全体に絶大なインパクトを与えるものであることは間違いない。 なぜならahamoは現状、 “中容量” とされる料金プランの基準となっているからだ。オンライン専用で20GBの通信量を低価格で提供したahamoの登場が大きなインパクトを与えたことで、そこそこの通信量と安価な料金を両立する中容量料金プランの通信量は、軒並み20GBに設定されることとなったのである。 実際競合のプランを見ると、KDDIのサブブランド「UQ mobile」がahamo対抗と位置付ける「コミコミプラン」は、月額3,278円で通信量が20GBである。また、段階制を採用するソフトバンクのオンライン専用プランLINEMOの「ベストプランV」や、楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」なども20GBを1つの区切りとして採用しており、ahamoの影響を強く受けている様子を見て取ることができるだろう。 それが今回、ahamoが料金据え置きで30GBに増量したことにより、中容量の基準が突如20GBから、30GBにアップしたことになる。このことが、従来20GBの通信量を基準としてきた競合他社の料金プランに、少なからぬ影響を与えることは間違いない。 ■通信量30GB増量に至った背景。要因の1つに挙がる「irumo」の存在 だがそもそもなぜ、NTTドコモはahamoの通信量を30GBに増量するに至ったのだろうか。同社の親会社である日本電信電話(NTT)が先日9月30日に実施した投資家向けのイベント「NTT IR DAY 2024」における、NTTドコモの代表取締役社長である前田義晃氏の説明によると、ahamoの解約が他のプランより高い傾向にあることが背景にあるという。 そもそもahamoは、デジタルネイティブでオンラインでの契約やサポートに抵抗がなく、しかもスマートフォンでデータ通信を多く使用する傾向が強い、10~20代の若い世代を主なターゲットとした料金プランである。しかもコロナ禍以降、携帯電話業界で叫ばれているのがスマートフォンでの通信量が大幅に増加したことで、2023年に起きたNTTドコモの大幅な通信品質低下も、その需要を読み違えた結果生じたものである。 これら2つの視点から、ここ数年のうちに若い世代の通信量が大きく増えている様子を見て取ることができ、かつては十分な容量とされていた20GBの通信量に不足感が生じ解約率が高まっているようだ。とりわけahamoは、通常の料金プランで利用できる20GBと、「ahamo大盛り」で利用できる100GBの中間というべき通信量が存在しないので、通信量の増加で顧客にとってちょうどいい通信量のプランがなくなってしまったことが、解約に至る主な理由となっているのだろう。 そうしたことから今回、ahamoの通信量を30GBに増量し、ahamoの魅力を高め解約を抑止するというのがNTTドコモの狙いとなっているようだ。ただ筆者としてはもう1つの要因として、「irumo」の存在も少なからずあると見ている。 irumoは、2023年の提供以降好調を維持しており、従来プランからの乗り換えも進んでいるようだが、その結果としてNTTドコモ全体のARPUを引き下げ、業績回復の遅れにもつながっている。 それだけにNTTドコモは、ARPUの向上が至上命題となっており、irumoからより料金の高いプランに乗り換えてもらうことが求められている。そのためには、1つ上位のプランとなるahamoの魅力を高める必要があったというのも、増量に至る要因となっているのではないだろうか。 ただ、どのような事情があるにせよ、ahamoが料金据え置きで通信量を10GBも増やしたことが、競合の料金プランの競争力を大きく引き下げてしまったことは確かだ。それだけに競合他社からも、早速これに追随して競争力を維持しようという動きが出てきている。 とりわけ、大きな影響を受けたプランの1つに挙げられるのが、2024年7月に提供を開始したばかりのLINEMOのベストプランVだ。それだけにソフトバンクは早速料金対抗策を打ち出しており、ahamoの増量が始まる10月1日から「LINEMOベストプランV 30GBがおトクキャンペーン」を実施。最大6カ月間は通信量が20GBを超えても、20GBまでと同じ料金のまま利用できるという。 また、ahamo対抗プランとして「合理的みんなのプラン」「合理的30GBプラン」を提供してきたMVNOの日本通信も、ahamoの増量に合わせてやはり対抗策を打ってきている。具体的には従来通信量が10GBだった合理的みんなのプランの通信量を、料金据え置きで20GBに増量。さらに合理的30GBプランは、やはり料金据え置きのまま通信量を50GBに増量し、「合理的50GBプラン」へと名称も変更するに至っている。 今後もこれら2社に続いて、増量したahamoへの対抗策を打ち出すサービスが増えるものと思われるが、とりわけMVNOは企業体力が弱い上、お金を払って携帯大手からネットワークを借りてサービス提供しているというビジネスの仕組みを考慮するならば、料金据え置きのまま通信量を増量するという対抗策を打てる企業は限られるように思えてしまう。 30GBに増量したahamoがMVNOの一層の淘汰を進め、料金競争をより熾烈なものにする可能性は非常に高いのではないだろうか。
佐野正弘