〈奥能登豪雨〉収穫直前のコメ無残 水田被害、農家「もうおしまい」 稲穂倒れ、泥水つかる
21日の記録的大雨は、収穫を目前に控えた奥能登の水田にも大きな被害をもたらした。稲穂が雨風で倒れたり、泥水につかって変色したりし、土砂が流れこんだ場所もある。元日の地震を乗り越えて稲作に励み、実りの秋を迎えようとした矢先の悲劇。ある農家は無残な光景にショックを隠さず、「もう米作りはおしまいにするわ」と力なく語った。(社会部・朝長穂奈美) 25日午後、珠洲市若山町を訪れると、田んぼに散乱した木の枝を拾う男性の姿があった。集めた枝を一輪車に載せ、近くの山林へ運んでいく。男性によると、収穫作業を行うには、枝や木くずを撤去しなければならず、自力で動かせない大木や切り株は「業者が撤去してくれるのを待つしかない」という。 見たところ、泥水につかったのか、稲穂の多くは下半分の色が変わっていた。「変色した部分は食べられない」と男性。収穫しても出荷できるコメは少なく、刈り取るかどうか悩んでいるとし、「もう米作りはおしまいにするわ」と話した。 市内に約130ヘクタールの田畑を持つ農業法人「すえひろ」(若山町出田)では、作付けした約80ヘクタールのほとんどが浸水した。農機具を保管していた倉庫は被害を免れたが、事務所には約50センチの高さまで水が流れこみ、従業員らは泥や割れたガラスの片付けに追われていた。 すえひろは30年ほど前、約7ヘクタールの田畑から事業を始め、少しずつ面積を拡大。元日の地震では田に水が入らないなどのトラブルに直面したが、川からポンプで水をくみ上げる対策を施して営農を続けた。 しかし、今回の豪雨で来季の作付け見通しは全く立たなくなった。代表の末政博司さん(65)は「地震も乗り越えてここまでやってきたのに、まさかこんなことになるとは。心が半分折られた」とうなだれた。 気落ちする生産者の一方で、「負けとられん」と奮起する農家もいた。若山町鈴内の農家為川昇さん(82)は約2ヘクタールの田畑のうち、収穫を控えた約1ヘクタール分が水につかったものの、「くじけとってもしょうがない。地震や雨に負けとられん」と力を込めた。 JAのと(穴水町)とJA内浦町(能登町)によると、奥能登では21日までに作付面積の半分以上で収穫が終わっており、今回の大雨で収量がどの程度減るかは見通せないという。