発症すると致死率100% 国内で根絶した狂犬病の流行再燃が懸念されるワケ
今年2月7日、群馬県で飼い犬が住民を襲い、12人にけがをさせるという事件が起こりました。この犬は国が義務づけている狂犬病の予防接種を受けておらず、飼い主は狂犬病予防法違反などの疑いで、警察の取り調べを受けています。狂犬病は致死率が100%に達する感染症で、日本では70年近く前に根絶されましたが、流行再燃の可能性も懸念されています。今回はもっとも悲惨な感染症といわれる狂犬病について解説します。【東京医科大学病院渡航者医療センター部長・濱田篤郎/メディカルノートNEWS & JOURNAL】
◇致死率は100%
狂犬病は脳炎を起こすウイルス感染症です。イヌが主な感染源になりますが、ネコ、アライグマ、コウモリなど、哺乳動物は全てリスクがあります。狂犬病ウイルスに感染した動物にかまれたり、引っかかれたりすると、ウイルスは傷口から体内に侵入し、神経を通って脳に向かいます。この脳に達するまでの時間が潜伏期間で、約1~3カ月とされています。 ウイルスは脳に到達すると急速に増殖し、致死性の脳炎を起こします。最初は発熱など、かぜのような症状がみられ、間もなく不安感、興奮、幻覚、精神錯乱などの精神神経症状が出現します。そして、この時期に恐水発作と呼ばれる狂犬病に特徴的な症状がみられます。水を飲もうとすると、喉の筋肉がけいれんして水が飲めなくなる症状で、患者は次第に水そのものを恐れるようになります。こうした症状が数日間続き、最後に昏睡状態に陥り死亡するのです。 このように狂犬病は、ウイルスが脳に到達すると致死率がほぼ100%になるため、もっとも悲惨な感染症といわれています。
◇救命は早期のワクチン接種のみ
狂犬病に感染した動物にかまれた場合、唯一の救命方法は、脳にウイルスが到達する前に、そのウイルスを殺してしまうことです。このためには、体内にウイルスが侵入してからできるだけ早くワクチン接種を複数回受けて、自身の免疫でウイルスを殺す方法を取ります。 ただし、ワクチン接種を受けても免疫ができるまでには一定の時間がかかるため、狂犬病リスクの高い国に滞在する人には、出国前にワクチン接種を受け、免疫をつけておくことを推奨しています。こうしておけば、かまれた後の追加接種で、迅速にウイルスを殺すことができるのです。 かまれた傷が深いと、短時間でウイルスが脳に到達することもあるため、狂犬病免疫グロブリンを併用します。この製剤には狂犬病に免疫のある人の血清が含まれており、ウイルスの脳への到達を遅らせることができます。しかし、日本では狂犬病免疫グロブリンが販売されておらず、この製剤がどうしても必要なケースは、海外で接種を受けるしかないのです。