「物価と賃金の好循環」に“悪い円安”が立ちはだかる 実質賃金の目減りを防ぐ円買い介入
1ドル=160円を超える過度な円安は実質賃金の目減りを通して好循環の芽を摘みかねない。インフレ経済の定着には、円買い介入が必要な場面もありそうだ。 ■インフレ経済の定着に必要な介入 財務省によれば、4月26日~5月29日の外国為替平衡操作額は9兆7885億円と、巨額に上った。鈴木俊一財務相は、介入の動機について「投機的な動きを背景とした過度な変動に対応するため」としているが、一言で変動といっても、ボラティリティー(ボラ)や値幅などの質の違いがある。筆者は、2022年の介入の動機は主としてボラ、今回は値幅にあったと考えている。 ■値幅+ボラ=17%で介入 22年9月22日に円買い介入を実施した時のボラ(3カ月実績、以下同様)と値幅(3カ月前比、以下同様)はそれぞれ12.2%と5.5%、同年10月21日の介入時は12.6%と8.5%で、ボラが10%を超えており、介入の目的は相場の急変を緩和する「スムージング」にあった(図1)。 ところが昨年秋以降、「年初来で20円以上の値幅も一つのファクター」(23年10月)、あるいは「年初来わずか1カ月強の間に約10円も円安になった」(24年2月)という値幅を意識した表現が増加した。 円買い介入の余波で積極的に円を売り崩そうという動きが下火になったことで、ボラは低下する一方、着実に円安が進んでいたことが、値幅重視の発言につながったとみられる。介入があったとみられる今年4月29日のボラと値幅はそれぞれ7.9%と8.6%、5月2日は8.2%と7.6%で、22年の介入時よりボラの水準が低く、介入の動機は「一方向への累積的な動き」を是正する水準訂正へと移ったと考えられる。 自動車の運転に例えると、ボラも値幅も高水準だった一昨年の介入時は高速蛇行運転、ボラはほどほどでも値幅が大きい局面での今回の介入は、まっすぐ走ったうえでのスピード違反と評価できよう。どちらも危険運転には変わりなく、本邦当局の取り締まり対象となったといえる。