「物価と賃金の好循環」に“悪い円安”が立ちはだかる 実質賃金の目減りを防ぐ円買い介入
興味深いのは、過去のデータからは、値幅とボラの和が17%付近に達すると介入に入る可能性が高いという法則性が見いだせることである。 ■円安が実質賃金減らす 円買い介入で1ドル=160円のラインを防衛したことは、実質賃金の先行きを占ううえでも重要な意味を持つ。円安は輸入物価の上昇を通じて半年程度後の国内の財(モノ)価格に影響を及ぼす。4~6月期の為替相場が1ドル=150円で推移する場合をベースラインに置き、これが1ドル=160円になると0.2%ポイント、170円の場合は0.4%ポイントそれぞれ物価が押し上げられる。 一方で、厚生労働省発表の『賃金引上げ等の実態に関する調査(令和5年)』で示された「改定後の賃金の初回支給時期別企業割合」を基に、24年春闘のベア3.5%(当研究所予想)が実際に賃金に反映されていく道筋を予想すると、4~6月期に46%、7~9月期に86%、10~12月期に92%の企業が反映済みとなり、それとともに「毎月勤労統計調査」における所定内給与の伸びも高まっていく。 現金給与総額の伸びが所定内給与の伸びと同じと仮定すると、1ドル=160円のケースでは10~12月の実質賃金は、どうにか前年比プラスを確保できるものの、1ドル=170円のケースではマイナスとなる(表)。円買い介入で4~6月期の為替水準を押し下げたこと(ドル安・円高)は、個人消費主導での景気回復基調を実現する上で意義があったと評価できる。 もっとも、米5月雇用統計は底堅く、円安・ドル高リスクはくすぶり続けている。7月以降に円安が進んだ場合の25年1~3月期の物価押し上げ効果(ベースライン:1ドル=155円)を計測すると、1ドル=160円で0.3%ポイント、170円で0.5%ポイントそれぞれ押し上げると試算できる。実質賃金は依然、為替相場の動向次第で大きく目減りするリスクを抱えている。円安と実質賃金をめぐる緊張関係は25年の所得環境を見据えた局面へと移行しつつある。