森山直太朗インタビュー「映像作品『素晴らしい世界』をきっかけに、見た人がそれぞれの中にある何かを考えるきっかけになってほしい」
――答えが出ない問いだからこそ、問い続けなければいけないという基本原則に立ち返ると、映像作品(映画/Blu-ray & DVD)として『素晴らしい世界』が残るというのは、とても意味のあることだと思います。 そうですね。あのとき感じたものが、それが答えではなかったにせよ、また年月が過ぎれば全然違う感じ方をするでしょうし、だけどひとまずこの地点で区切りをつけるという意味で映像作品に残すことは僕自身にとっても必要だと思いました。 ――先ほど、両国国技館の場の力ということをおっしゃいました。実際にステージに立った感覚はいかがでしたか? もう感覚的には3年前くらいの遠い記憶になっちゃってるんですけど(笑)、安心感があったというのはすごくよく覚えているんですよね。本当に自分の前世は力士だったんじゃないか? って思うくらい(笑)。実際、本番の2週間くらい前に風邪をこじらせてしまって、リハもあまりできない状態で本番に臨むことになったんですよ。こんなに時間をかけて用意してきたのにっていう自分に対しての情けなさとか、本番で声が出なかったらどうしようっていう不安とか、結構ピンチな状態だったんですけど、いざ両国国技館のステージに立ったら、ピタッと咳が止まって、スコンと腹から声が出たんですよ。本当に角力の神様がいるんだって思いました。そういうのも含めて、不思議な力を感じる空間でしたね。だから、両国国技館ってどんな場所でしたか? って聞かれたら、パワースポットでしたっていうのが一番端的に的を射た答えですね(笑)。 『素晴らしい世界』の〈後篇〉に参加してくれたヴァイオリニストの須原杏ちゃんが両国国技館を見に来てくれて、僕にこんなことを言ったんですよ。「この両国国技館の舞台のために、これまでの101本があったんだと思った」って。それはすごくうれしかったし、一方で、国技館での『素晴らしい世界』のパフォーマンスの後に、「ああ、答えはなかったんだ」っていう場所に辿り着いたっていう、どう理解したらいいのか分からない感覚がずっとあって。つまり、ここまで長い時間をかけて回ってきて、結局得られたものは、答えなんてないという答え、というのはあまりにも酷だなっていう感覚と、同時に、もう探さなくていいんだっていう安堵の両方があったんですよね。そして、ある意味で執着を手放せたことで、表現者としては最もいい状態になれたんだなって思ったんです。それが、杏ちゃんの「このためにやってきたんだね」っていう言葉の真理なのかなって今は思います。