“過激な復讐劇”で社会現象に 韓ドラ「ペントハウス」の魅力とは?格差社会、欲望、憎しみ…“人間の闇”描いた衝撃作
超高級タワーマンションを舞台にそこで暮らす富裕層の家族たちの闇を描き、韓国で社会現象を巻き起こした大ヒットドラマシリーズ「ペントハウス」(2020-2021年)の全シーズン(全96話)がディズニープラスにて8月7日より一挙配信された。格差社会、プライド、欲望、裏切り、憎しみ、そして復讐(ふくしゅう)といった韓国ドラマではおなじみの“胸糞テーマ”を詰め込んだ同シリーズは瞬間最高視聴率31.1%(※ニールセン・コリア調べ)を叩き出し、韓国の賞レースを席巻した。過激なストーリー展開や複雑に絡み合う人間模様、予想だにしない展開の数々、そして各キャラクターを演じ切った実力派俳優陣たちなど、まさにイッキ見したくなるような本作の魅力を解説する。(以下、ネタバレを含みます) 【写真】希代の“胸糞キャラ”を怪演したオム・ギジュンにゾクッ… ■強烈な登場人物たちの間で渦巻く人間の闇を描いたサスペンスドラマ 物語はセレブが暮らす超高層タワーマンション「ヘラパレス」の高層階から少女ミン・ソラ(チョ・スミン)が転落するところを住人のシム・スリョン(イ・ジア)がエレベーターの中から目撃するところから始まる。この不可解な落下事故にはヘラパレスの最上階“ペントハウス”に住むチュ・ダンテ(オム・ギジュン)を筆頭に多くの人物が関わっていた。また、死んでしまったソラはこのマンションに住む富裕層の子どもたちの家庭教師を担っており、嫌がらせばかりする大人たちやその子どもばかりの中、スリョンは唯一の味方だった。 そしてこの物語を複雑にしていくのは2カ月前、高校時代の首の怪我で声楽家になる夢を絶たれ、現在は不動産仲介の仕事をしているオ・ユニ(ユジン)と彼女のライバルだった声楽講師チョン・ソジン(キム・ソヨン)の、声楽家を目指すユニの娘ペ・ロナ(キム・ヒョンス)を通した再会だ。これを機に欲望、憎しみ、子どもへの愛情が渦を巻き、最終的にはソラの死につながっていく。 さらに哀れな死を遂げたソラが実はスリョンの実の娘だったことが発覚し、スリョンを筆頭に壮大な復讐劇が始まっていくという流れでストーリーが展開される。一見、娘の死を悔やみリベンジを決意した母の物語に見えがちだが、そう簡単には語れないのがこの「ヘラパレス」に住みつく狂気に溢れた“悪人”の数々だ。 本作の重要登場人物を紹介しよう。数ある“マクチャンドラマ”の中でも歴代トップ級のヴィランで金と権力を振りかざすダンテは、スリョンの夫でありソジンとは不倫関係にある冷酷な男だ。自分の欲望のためなら子ども相手でも容赦なく悪事を働き、多くの人の命に手をかけてきたサイコパスとして本シリーズの胸糞キャラNo.1とも言えよう。 続いてソジンはダンテと同様に強欲でありながらも常に妹と比べられてきた過去に怯え、認められるためには手段を選ばない女性だ。また高校時代から歌声の実力だけでなく自分には手が届かないモノを持つユニに対する劣等感で、彼女や彼女の周囲の人間に対して卑劣な罠を仕掛けていく。 ハ・ユンチョル(ユン・ジョンフン)はソジンの夫であり、ユニの元恋人。欲望まみれのソジンに愛想を尽かしていたところ、ダンテとの浮気を目撃してしまう。娘のハ・ウンビョル(チェ・イェビン)を思うが故にあり得ない行動に走る、要注意人物だ。 そして後のヘラパレス住人となるユニは、高校時代にソジンとの揉め事で声帯に傷を負ってしまい声楽家の夢を断念。シングルマザーとしてロナを育てていた中で突然再会することになったソジンや彼女に手を差し伸べたスリョンとの出会いから、どんどん富裕層へと這い上がっていく。 ■子どもたちの間にもある格差社会を徹底的にあぶり出す 彼らの関係性が後に取り返しのつかない事件の数々へと発展していくが、彼らの子どもたちの世界で起きるいじめ問題や不正事件なども良い意味で本作の胸糞の悪さに加担している。 例えば、シーズン1で亡くなったソラはダンテの子どもである双子のチュ・ソクフン(キム・ヨンデ)、ソッキョン(ハン・ジヒョン)ら富裕層の子どもたちの家庭教師をしており、彼らはソラがみすぼらしい姿や気に食わないという理由で暴力や車に閉じ込めて火をつけるなど、目に余る異常行動を起こす。 また、学校生活ではソラの死をきっかけに補欠から繰り上げ合格となったロナに対し、ソッキョンやウンビョルらは精神的に追い詰め、特に親の権力とコネで彼女の実力を封じ込めていく様ははらわたが煮えくり返る強烈なシーンだ。 さらにはロナの味方をしたユ・ジェニ(チン・ジヒ)へとターゲットは移り、マンションの階数が低いことや母親が偽ってアカスリ師として仕事をしていたことから、弱みを握ったソッキョンが脅す姿も描かれた。自分たちよりも“上”にいる人間に対し媚びを売る姿は大人も子どもも見苦しく、人間社会の闇を憎たらしいほど的確に、そして潔く描いた物語だからこそ多くの視聴者に刺さったのだろう。 ダンテの極悪人ぶりや奇声を発して狂いまくるソジンの行動に注目が行きがちの本作だが、全登場人物たちを通して映し出した人間の根底にある闇を暴き、一筋縄ではいかない韓国の社会問題を露呈した人間ドラマとしての部分にも着目してみてはいかがだろうか。 ドラマ「ペントハウス」はディズニープラスにて全シーズン配信中。 ◆文=suzuki