「手取りが減る!」と不満爆発の“年収106万円の壁”撤廃、それでも進めるべきと専門家が断言するこれだけの理由
● 手取りが回復する年収以上 働くことを目標にするといい 額面年収と手取りの関係を見てみよう。 壁直前の年収105万円の手取りは、税金が引かれて約104万円。年収106万円になると社会保険料が約15万円発生するので、手取りは約90万円となる。ほぼ同じ時間働いて、手取りが大きく減るのは誰だって嫌だろう。 この手取りの逆転現象は起こるのは、社会保険料は一定基準を超えると全額にかかるからだ(税金は超えた部分にだけ課税される)。 今回の報道では、社会保険料が15万円かかることで手取りは大幅ダウンすることばかりに焦点を当てているケースが多いのが気になる。 先週、ニュース番組から電話でコメントを求められた際にスタジオの流れを確認すると、「手取りが15万円減ることになるのです」で締めくくると言う。ええー、そこで終わると、視聴者はネガティブな受け止め方しかしないようになる。それは絶対に避けたい。 ディレクターに「年収125万円以上働くと、手取りは回復します」とぜひ付け加えてほしいとお願いした。視聴者は、いくら以上働くと社会保険料を払っても手取りが増えていくのかを知りたいのだから。 最初は渋っていた。理由を尋ねると「テレビなのであまり数字が多くなると分かりにくくなる」と言うので、ではグラフで見せるといいのではと提案し、メールでグラフを送り付け、無事に手取り回復年収を伝えることができた。
● 適用拡大で進むべき道は間違っていない 年収を上げる“準備”を始めよう 今回の適用拡大の案について、SNSではネガティブ意見が散見するが、国が考える「働く人は社会保険に入って、自分で年金を増やし、社会保障給付を受ける」方向性は、進むべき道で間違ってはいない。 要件撤廃直後の導入がスムーズになるように、経過措置として壁越えをする人への支援や、小規模事業者への制度導入のサポートなどはもちろん必要である。その過程で使い勝手が悪いなど、いろいろ問題も発生するかもしれない。それでも適用拡大の流れがストップすることはないだろうし、流れを止めてはいけない。 なぜなら、厚生労働省は10年以上も前から準備を進め、法律を作って適用拡大してきたのだから。選挙を端緒として急浮上した「103万円の壁対策」とは、年季が違うのである。 「将来のわずかな年金より、今の手取りのほうが大事」という言葉は飲み込んで(気持ちはよく分かる)、決まったこととして適用拡大を受け入れ、早めにこれからの働き方を考えるほうがいい。制度改正は、ナナメに見ると大事なことを見落としてしまうのでまっすぐ受け止めよう。 手取りが大きく減るのは106万円を超えた時。そして、前述のように125万円を超えると手取りは順調に増えていく。 適用拡大の改正案は年明けの国会を通ったとしても、企業や年金機構、健保組合なのどのシステム改修の時間もかかるだろうから、実際に施行されるのは2~4年後と思われる。「106万円の壁」が誕生した時は、法改正は2012年、施行は2016年であった。 施行が数年後だとすると、考える時間、準備する時間は十分にある。125万円を超えるように、例えば年収130万円で働くなら、月額約10万8000円。週20時間だと時給は1350円以上のところを探す。時給は販売職より事務職の方が高い傾向にあるので、PCスキルを身につけて、時給アップを図るのもいいだろう。 時給1350円が難しそうなら、働く時間をもう少し増やすのはどうだろう。パートタイマーにとって、働く時間の捻出が一番難しいことは理解している。しかし、壁を越えて働いた人の多くは「越えてよかった」と言っている。なにより収入が増えるのだから。ぜひ電卓を叩きながら、壁越えプランを検討してみてほしい。
深田晶恵