「手取りが減る!」と不満爆発の“年収106万円の壁”撤廃、それでも進めるべきと専門家が断言するこれだけの理由
● 「106万円の壁」はポジティブな改革 制度はよりシンプルになるべきだ 改正案が実現するといいと考える理由は、社会保険加入要件が1つとシンプルになることだ。パート収入の壁は、106万円以外に130万円もあるが、とにかくルールが細かい上、それぞれ要件が異なり仕組みは複雑だ(残業代や交通費を含む、含まないなど)。 賃金要件がなくなれば、要件は簡素化される。社会保険に加入し収入を増やしたい人は、とにかく週20時間以上働けばいい。シンプルだ。制度はシンプルなほど、実現可能になり、利用者が増える。 企業規模要件は撤廃とあるが、実際には従業員数5人未満の個人事業所は今後の検討課題としているので、今回は適用拡大の対象外となる。 企業規模要件は、501人以上、101人以上、51人以上と段階的に縮小されている。国が目指すのは、一定時間以上働く人は勤務先の企業規模に関わらず、社会保険に加入することだ。なので、企業規模要件の原則撤廃は自然な流れと言えるだろう。 では、今、賃金要件の撤廃が行われる背景は何か。それは最低賃金の引き上げが関係する。 この数年、全国的に最低賃金が引き上げされ、週20時間以上働くと年収106万円を上回るようになってきたため、106万円の要件は形骸化していると考えられる。ちなみに106万円とは、正確には月額賃金8万8000円のこと(年換算すると約106万円)。 例えば今年、東京都の最低賃金は1163円に引き上げられた。週20時間、4週働くと9万3040円になるので、8万8000円を超す。人手不足も深刻なことから、今後も最低賃金の引き上げが続くと予想されるため、この時期に賃金要件は撤廃してもいいと判断された。 以前は、パートタイマーが社会保険に加入できるのは「所定労働時間及び所定労働日数が通常の社員の4分の3以上であるかどうか」で判断されるルールのみであった。フルタイム勤務の社員の労働時間が週40時間なら、4分の3は週30時間。そもそもパートタイマーはフルタイムで働けない事情を持つ人多い中で、週30時間以上働くのはハードルが高い。 そこで社会保険加入の適用拡大が2016年に施行された。要件は、(1)週20時間以上、(2)月額賃金8万8000円以上(年収換算106万円以上)、(3)従業員501人以上(段階的に緩和、現在は51人以上)など。加入要件を緩和することで対象者を広げ、その分岐点が106万円となった。 つまり、106万円の壁はネガティブな壁ではなく、パートタイマーも社会保険に加入しやすくなるポジティブな「改革」だったのである。自ら保険料を負担することで将来の年金額は増えるし、配偶者の社会保険の扶養になっていると受けられない給付金をもらうことができるようになるのだ。