【グッチ オステリアにて夢の競演】気鋭のシェフが語りあったこと
2023年秋、「グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ」にて、同店のヘッドシェフ、アントニオ・イアコヴィエッロと、和歌山・岩出「ヴィラ アイーダ」の小林寛司シェフによる共宴が開催された。素材が語る言葉に耳を澄ますふたりに話を聞いた 【写真】グッチ オステリアで提供された料理
「グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ」。あの「グッチ」と、ミシュランガイドブックの三ツ星店であるイタリア・モデナの「オステリア フランチェスカーナ」のシェフ、マッシモ・ボットゥーラとのコラボレーション・レストランだ。2021年秋に誕生しておよそ2年。この店のヘッドシェフを務めるのは、ボットゥーラシェフの愛弟子、アントニオ・イアコヴィエッロ。伝統の味をベースに、日本の食材を駆使した新しいイタリア料理を創り上げることに専心している。 2023年秋、ゲストシェフを招いての初めてのコラボレーションイベントが開催された。ゲストは和歌山・岩出「アイーダ」の小林寛司シェフ。小林シェフは、「アイーダ」に隣接する畑で年間300種類以上の野菜を育て、朝収穫した野菜を主役に、当日料理をするスタイルを続けて24年。「Farm to Table」という言葉が世の中にまだないときから、自らの畑の恵みをテーブルにのせてきた。 イアコヴィエッロ ヘッドシェフは言う。「日本にはミクロな季節、七十二候がある。すなわち5~6日ごとの季節の微妙な変化を人々は感じとっているんですね。その日の天気に繊細に反応して生活を送るーーミクロな季節感を大切にする日本人の感性に心惹かれています。季節の野菜をテーブルにのせ、土の恵みを伝えるカンジシェフ(小林シェフ)の料理をいただいたとき、そのミクロな世界が目の前に広がりました。一緒に厨房に立ちたいと思った瞬間でした」。 小林シェフは、「今回の料理は、グッチらしいクリエイティビティに溢れるお皿になったと思います。2人のシェフがひと皿ずつ作って交互にお客様にお出しするのではなく、厨房で話していたら『このお皿はこれをこうして、いや、この素材を使おうよ』みたいになって。全てのお皿をふたりでアイディアを出し合って作りました。いやー、たくさん話して面白かったです」。 コースは、アミューズや食後のプティフールなどを除いて全8品。イアコヴィエッロヘッドシェフのクリエイションと、小林シェフの深い知識と感性が交差し、重なり合った時間だった。 たとえば2品目の「松茸 ジャガイモ ソバの実」。小林シェフのスペシャリテ、季節の野菜のインサラータ(サラダ)を土台にしている。イアコヴィエッロヘッドシェフから「僕の故郷ではきのこ料理にはガルム(イタリアの魚醤)を入れる。試してみては?」と提案があり、小林シェフは「即、取り入れました」。 続くお料理は、豊洲市場で出合ったつぶ貝を、イアコヴィエッロヘッドシェフの故郷・カンパニア州の名物、カタツムリ料理に見立てたひと皿。 イアコヴィエッロヘッドシェフの祖母は、カタツムリに必ず緑のソース(サルサヴェルデ)を添えていた。サルサヴェルデを添えるのは、祖父母へのオマージュ。「カタツムリは苦い野菜のそばに必ずいます。だから、苦みのある野菜を添えたかった。カンジシェフが自らの畑で収穫してきてくれた野菜のほのかな苦みがなかったら、この料理は成り立たなかった」。つぶ貝にアニメッラ(仔牛の胸線肉)を添えたものと小林シェフの野菜を、揚げたパスタ生地にのせた。 今回の供宴の裏テーマとして、「苦み」の存在があるとふたりのシェフは話す。「イタリアでは苦みのある野菜が多い。反対に、日本の野菜は甘みが強い印象がありました。僕は日本でトマトソースを作るとき、数種類のトマトを使い、さらにフランボワーズなどの赤いフルーツをプラスして酸みを加えます。日本のトマトは、1種類だけだと深みのある味が出せないんです」とイアコヴィエッロヘッドシェフ。 小林シェフは、「苦みは料理に奥行きを与えてくれます。アントニオはイタリアの野菜で育っているから、それが当たり前になっている。でも、日本の野菜にも本来は苦みも酸みもあったんです。最近はその両方がなくなってしまっている。昔のトマトはキューッと酸っぱかった。火入れすると、そんなトマトのほうがおいしくなります。日本で苦みのある野菜は、郷土野菜として残っていたり、山菜であったり。僕の育てている野菜にもあります。その魅力をアントニオに伝えたかった」。 「師匠のボットゥーラシェフは、いつもこう言っています。主食として世界でいちばん作られているのはパンで、いちばん捨てられているのもパンだ、と。でも古いパンにも光を当て、素晴らしい料理にすることができるんです」とイアコヴィエッロヘッドシェフ。 この皿で供されるラビオリの中身は古いパンとトマトのペースト。そこに梅のペーストを忍ばせている。下に添えたのは、小林シェフのパプリカの酢漬け。メインディッシュに使う鴨の骨を捨てずに、出汁をひいた。古いパンをトマト煮込みにするイタリア・トスカーナ地方の郷土料理「パッパ・アル・ポモドーロ」からインスピレーションを得たという。 どの料理にも考え抜かれたストーリーがあり、そこへ辿り着くまでのふたりの会話を想像するのが楽しい。来日してすでに2年半、イアコヴィエッロヘッドシェフは、自分の料理は変わったと話す。 「日本料理は苦い、酸っぱい、甘いなど微妙な味わいを食材から引き出していきます。イタリアでは力強い食材を直球で料理してきました。日本に来て、味に奥行きが出たような気がします。日本の素材を使うことで、イタリア料理をそのままお出しするのではなく、料理における『イタリアらしさ』を表現していきたい」 一方、小林シェフは、料理の発想の源は自分の畑にあると話す。「畑の野菜がないと僕の料理は作れない。朝、収穫してきた野菜の姿を見て、香りを感じて料理を考えます。だから、いつもメニューが決まるのはぎりぎりなんです。でも、東京は全国から、いや世界から届く素材に溢れています。だから、その素材を利用して、よりクリエイティブに仕立てるのが東京のシェフの役割だと思っています。その点で、アントニオは、まさにこの都会で料理を創出していると言えます。今回はアントニオのクリエイティビティを堪能しました」 ふたりの料理人の思いとセンスが重なり合い、見事な風味で場を次々に沸かせてくれた。グッチのセンスが彩る魅惑的な空間に、日伊の一流シェフのコラボレーションが映えた数時間。今後のふたりが辿る「その先」が楽しみでならない。 グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ 住所:東京都中央区銀座6-6-12 グッチ並木 4階 営業時間: ランチ 月曜~土曜日 11:30~14:30、日曜日 11:30~15:30 ディナー 月曜~土曜日 18:00~23:00 アペリティーヴォ 月曜 ~土曜日 16:00-18:00 バー 月曜~土曜日 18:00~23:00 定休日:日曜日 TEL. 03-6264-6606 BY MIKA KITAMURA