柳楽優弥、『ライオンの隠れ家』は纏うオーラまで違う 『ガンニバル』とのギャップに衝撃
最終話に向けて佳境を迎えている『ライオンの隠れ家』(TBS系)。感情をじんわりと心を揺さぶってくる温かい物語と並行して起こるサスペンス、そしてそれを牽引する柳楽優弥の演技の吸引力から目が離せない。柳楽に対して、筆者がこれまで抱いていたイメージをいい意味で大きく覆された作品でもある。 【写真】『ライオンの隠れ家』最終話 場面写真(全3枚) 本作は、柳楽演じる市役所で働く平凡で真面目な優しい青年・小森洸人と坂東龍汰演じる自閉スペクトラム症の美路人の兄弟が、突然現れた「ライオン」と名乗る謎の男の子との出会いをきっかけに、ある事件へと巻き込まれていくヒューマンサスペンス。サスペンス的展開はもちろんあるのだが、家族愛や兄弟愛といった、日常にふと存在しているものの、誰もが素通りしてしまう絆をじっくりと丁寧に描いている。柳楽が演じている洸人は、市役所を退勤後に弟を迎えに行く心優しい人物であり、とりわけ絶叫するわけでも、アクションシーンがあるわけでもない。どこにでもいる優しい兄にすぎないのだ。 と、あえてこう書いたのは、これまで柳楽が演じてきた人物は“普通”ではなかったから。普通というものはどの立ち位置から見るか、どの価値観からから見るかによっても大きく揺らぐものではあるが、きっと大抵の人が見てきた過去の作品での柳楽は、アブノーマルな役が多かったのではないだろうか。 遡れば、史上最年少のカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞した『誰も知らない』での鮮烈デビューが忘れられない。育児放棄の実話を基に制作された同作で、柳楽はあたかも日常に溶け込むようなリアリティを生み出していた。その狂気とも言えるリアルな質感は只者ではないと思わせる演技だった。
本作を起点に、『HOKUSAI』や『浅草キッド』、『ザ・ファブル』など、どこか恐怖すら感じさせるほどの狂気的な演技を見せてきた柳楽。近年の作品で特に衝撃的だったのが、『ガンニバル』(ディズニープラス)だ。都会から遠く離れた山間の“供花村”に、家族と共に駐在として赴任した阿川大悟(柳楽優弥)が村で起こる不可解な出来事によって、村の風習に巻き込まれていくヴィレッジ・サイコスリラー。本作を見たときに、これは柳楽にしかできないと思った。じわじわと人間の心をえぐってくるような恐怖と狂気に飲み込まれていく柳楽の鬼気迫る表情には確かな説得力があった。 だからこそ、『ライオンの隠れ家』での演技がとても新鮮に映った。最初は柳楽の優しい目線に戸惑いつつも、次第に生気を帯びた表情に温かい親しみを感じるようになっていった。特に、第8話で美路人とライオンが待つ新潟の佐渡島へと向かった洸人が、久しぶりに再会した愛生(尾野真千子)に向けた優しいまなざしや、募りに募った思いを伝える場面は、じんわりと心にしみるものがあった。 その演技への説得力をもたらす上で欠かせないのは、柳楽自身がまとっている柔らかいオーラである。もちろん、柳楽の魅力でもある力強い目や凛とした佇まいは残しつつ、これまでの出演作で感じた棘のようなものは一切身を潜め、柔らかな空気感で私たちを包んでくれる。ここまで役柄に寄り添うことができるのは、柳楽の演技力の賜物だろう。2024年の終わりにこの作品に出会うことができて良かった。柳楽の新たな魅力に気づくことができたのだから。
川崎龍也