BABY METALのライブシーンに感動…サブスク時代の音楽業界のリアルとは? 映画『ヘヴィ・トリップⅡ』解説レビュー
わたしたちがもっとも不得意とする「好き勝手に生きること」
夢や憧れを捨てて別の道で生きるか、夢にしがみついて生きるか。夜が訪れるたびに悩んだ経験があれば感情移入すること間違いなしのキャラクターだ。商業主義の奴隷と化した彼の姿がZ世代には「長いものに巻かれて生き長らえているかっこ悪いおじさん」と映るかもしれない。とはいえある程度の経験値を持つ年代が長いものに巻かれて生きるのは容易ではない。かといって多勢を巻き込むフィストのような長いものになる野心や才覚もない。 ロックンロールバンドはそういう青臭さでできている。負けると分かっていても理想に向かって無軌道に突っ走っていく。現実社会に立ちはだかる理不尽な壁をぶっ壊して進んでいく。人生に一発逆転ホームランなんてないとわかっていてもそれを夢見て生きていく。幾つになっても。 笑いながら登場人物たちのヤケクソっぷりに心の中で拳を振り上げているうちにそこから滲み出る人生の悲哀に涙している。保守的な田舎村で「今に見てろよ」とギターを手に音を出し始めた一作目の冒頭に心が収束していく。おバカな音楽映画の無限ループ。死ぬまでおバカな青春映画みたいな人生でもいいじゃないか、と。 フィンランドで有名なものといえばサンタクロース、サウナ、ヘヴィ・メタル、そして幸福。フィンランドが"世界一幸福な国"と言われるのは、そしてその日常にヘヴィ・メタルが流れているのは「好きなように生きることこそ幸せである」という価値観が根底にあるからではないだろうか。 日本には"空気を読む"という独特の文化がある。それは思いやりや気遣いでもあるが時に過度な忖度による過ちも生み出す。自分で自分を縛り付け、人生を不幸にする。 ヘヴィ・メタルとともに生きている彼らは知っている。たとえ世界一居心地の良い刑務所でもそこに真の自由はないことに(だったら入るようなことするなよという話なのだが)。だからこそ鎖を引き千切って走り出す。スピード違反上等で理想に向かって突っ走っていく。その姿に「幸福とは何か」について考えさせられる。わたしたちがもっとも不得意とする「好き勝手に生きること」について考えさせられている。 『ヘヴィ・トリップⅡ/俺たち北欧メタル危機一髪!』 公開は2024年12月20日。年明けには●●●が××××しているなんて誰も想像していなかったあの頃に、と言われる前に、好き勝手に笑っておきたい。 【著者プロフィール:青葉薫】 横須賀市秋谷在住のライター。全国の農家を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」が松竹系で『種まく旅人』としてシリーズ映画化。別名義で放送作家・脚本家・ラジオパーソナリティーとしても活動。執筆分野はエンタメ全般の他、農業・水産業、ローカル、子育て、環境問題など。地元自治体で児童福祉審議委員、都市計画審議委員、環境審議委員なども歴任している。
青葉薫