BABY METALのライブシーンに感動…サブスク時代の音楽業界のリアルとは? 映画『ヘヴィ・トリップⅡ』解説レビュー
サブスク全盛時代における音楽業界のリアル
最大の敵は彼らにフェス出演をオファーしたフィスト。 「音楽産業の一番の担い手はアーティストじゃなくてTシャツを作っているカンボジアの子どもたちだ」 そんなフィストの風刺的な台詞にも象徴されるように、サブスクにより楽曲がTシャツよりも金にならないコンテンツとなった音楽業界でアーティストがどうサバイブしていくのかが本作のテーマのひとつでもある(そもそも彼らはヒットするようなオリジナル曲も皆無なのだが)。 リスナーに迎合するような楽曲のミックス。イケメンのボーカル以外商品価値ナシと査定されたことによるメンバー間の軋轢。こうした現実の壁に立ち向かっていくプロテストソングのような物語を軸に、ラブソング、友情ソングと、多様な楽曲を想起させるサブストーリーがふんだんに繰り広げられる。 ラブソングのミューズとして商業主義に意を唱えるクシュトラックスを虜にするのは日本のメタルダンスユニット「BABY METAL」。本作における彼女たちのライブシーンは世界屈指のメタルフェスに日本のPOPカルチャーが一石を投じたような感動がある。 もちろん北欧メタルに欠かせない哀愁もしっかりと練り込まれている。そのひとりがインペイルド・レクタムがドイツのフェス会場に向かう旅の途上で出会うベテランメタルバンド、ブラッドモーターのボーカル・ロブだ。ヘリウムガスを吸わなければ何を言っているのか聞き取れない超絶デスボイス。モーターヘッドがモデルとされているが、80年代後半からCD創生期とともにやってきた世界的なヘヴィメタブームの追い風に乗って一世を風靡したのだろうと推測できる。 しかしながら、引退して悠々自適な暮らしができるほど巨万の富を築くことはできなかったのかもしれない。一度は手にした分不相応な札束を投資に回しておけば良かったと今になって後悔しているのかもしれない。サブスクの台頭で収益構造が激変した音楽業界で生き長らえるために自分よりも年下の大物プロデューサーであるフィストの操り人形となっている。