BABY METALのライブシーンに感動…サブスク時代の音楽業界のリアルとは? 映画『ヘヴィ・トリップⅡ』解説レビュー
前作のキャッチコピーは「後悔するなら、クソを漏らせ!」
メンバーはフィンランドの保守的な村で燻っている4人の若者。介護施設勤めのボーカル・トゥロ(長瀬智也さんのような存在感のあるイケメン)。家業のトナカイの食肉処理工場を手伝っているギタリスト・ロットヴォネン。図書館勤めのベーシスト・クシュトラックス(情けない顔文字のようなコープス・ペイントが絶妙)。怖いもの知らずのドラマー・ユンキ(途中で事故死。保護施設に入所していたオウラとメンバー交代)。 幼馴染みである彼らはいつか村の連中を見返してやるという反骨精神でヘヴィ・メタルバンドを組んでいる。12年もやっているのにオリジナル曲が一曲もないコピーバンドだ。 練習場所はロットヴォネンの実家である精肉工場の地下。"自分たちの音"を探していた彼らは階下まで聞こえてくるトナカイの叫びをギターリフで再現し、初のオリジナル曲を誕生させる。 そこに偶然立ち寄ったのがノルウェーの巨大フェスを主催する大物。デモテープを渡しただけなのに「これで俺たちもフェスに出られる」と勘違いした彼らがスピード違反上等の全速力でノルウェーに向かう珍道中を描いたのが前作『ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル!』である。 ちなみに劇場公開されたのは2019年12月27日。年明けにはライブハウスやミニシアターが不要不急と言われ、休業や廃業に追い込まれるなんて誰も想像していなかったあの頃だ。ちなみにキャッチコピーは「後悔するなら、クソを漏らせ!」。北欧の美しいフィヨルドとともに大量のゲロも飛び出すバカ(最上級の褒め言葉として)で下品な最高のパンクムービーだった。いや、メタルか。
映画前半で描かれる「世界一入りたい刑務所」
そんな彼らのセカンドアルバムとなる本作もコンプラなんてどこ吹く風の唯我独尊っぷりだ。物語はノルウェーの刑務所から始まる。前作のラストでライブ直後に逮捕された4人は獄中でも音楽活動を続けている。荒唐無稽と笑うかもしれないが、これが嘘のような本当の話。ノルウェーの刑務所というのは世界一ゆるい、ではなく、人道的なことで有名なんだそうだ。清潔感のある居室。本やDVDが自由に借りられる図書館。サッカーコートにトレーニングジム。そして音楽スタジオまである。 「趣味は人生を豊かにしてくれる。麻薬より音楽にハマる方がずっといい」とのこと。本作以上にアナーキーじゃないか。と思ったが、これらは再犯率を下げる為の真面目な施策。獄中で抑圧されると人は社会に対する怒りや復讐心を増幅させる。ならば快適な刑務所暮らしをさせれば次の犯罪に繋がるようなストレスも生まれないのではないかという理屈らしい。 「罰とは何か」という議論はあるのかもしれないが、ノルウェーではこの刑務所改革で出所後の再犯率が3分の1にまで低下したそうだ。 話を戻そう。そんな北欧の嘘のような本当の話も織り交ぜられた「世界一入りたい刑務所」(※本作より引用)で音楽活動を続けているインペイルド・レクタムの4人。獄中の彼らに音楽プロデューサーのフィストが面会に訪れる。 「ショービジネスはショーよりもビジネスが大事だ」と言い切る金の亡者。彼は4人の「獄中という名の地獄(実際は天国なのだが)のメタルバンド」という物語性に商品価値を見出しドイツのメタルフェス"ヴァッケン"への出演をオファーする。小躍りして喜ぶメンバーだったが、商業主義に唾を吐くクシュトラックスの反対により止むなく辞退(そもそも刑期中なので出られないというのを辞退理由の2番目に持って来るのがイカしている)。 納得の行かないトゥロたちの元にロットヴォネンの実家であるトナカイ粉砕場が地上げ屋の乗っ取り危機に瀕しているというSOSが届く。心の故郷の緊急事態にクシュトラックスも辞退を撤回。フェスの出演料でトナカイ粉砕工場を守るべく、脱獄。ヴァッケンで開催されるメタルフェスを目指す、というのが今回のストーリーだ。 前作同様、勘違いと思い込みで憧れに向かってスピード違反や逆走もどこ吹く風と突っ走る無軌道な疾走感は健在。理想を目指す若者たちに現実社会における幾多の壁が立ちはだかるのも青春映画のお約束だ。