依存症の人が見えている世界(2)快楽物質を求めてより刺激的な行為を繰り返すように
厚労省によると、アルコール・薬物・ギャンブルなどの依存症の精神科外来患者は約12万5000人(2021年)。これらの依存症以外にも、ネット依存やホストへの依存など現代社会ならではの依存もよく耳にする。 「ギャンブル依存症」体験記(3)消費者金融に手を出し13社から借りていた 依存対象が多様化することで、依存症患者も増えているのか? この問いに、数多の依存症患者を更生に導いているライフサポートクリニック・山下悠毅院長は「依存症患者が増えているとは断定できない」と前置きした上で、「依存症の存在が広く認知されるようになり、『もしかしたら自分も依存症かも』と思う方は増えている」と指摘する。 「〇〇の傾向があるから依存症になりやすいとは一概に言えません。卵が先かニワトリが先かではないですが、仕事や人間関係のストレスからお酒やギャンブルに依存する人もいれば、お酒やギャンブルに依存した結果、仕事や人間関係が立ち行かなくなる人もいる。気分が落ち込んでいると、何かに依存しやすくなりますし、一方で依存的な行為を終えると、気分が落ち込む人もいます」 依存症は、脳の仕組みによって引き起こされる病気だという。 例えば、アルコール依存症の場合、お酒を初めて飲んだときは、多くの人が「まずい」と感じたはずだ。どうして次第においしく感じるようになり、やめられなくなり依存していくのか? 「その理由は、お酒を飲むと脳内でドーパミンやβエンドルフィンといった快楽物質が出るからです。この快楽物質を求めて、行為を繰り返すようになるのですが、脳は同じ刺激にさらされると快楽物質が出づらくなる特性があります。そのため、より刺激的だったり量が増えたりする。欲望や衝動とは、あなたがコントロールしているのではなく、ドーパミンがあなたをコントロールしているということなのです」 頭では分かっていてもやめられないのは、脳がこうした習性を持つからだ。さらにアルコールや違法薬物に依存する大きな理由の一つに、「場や空間がある」とも付言する。 「私の経験上、依存症患者の多くは、不遇な養育環境や発達障害などを抱えているケースが多い。彼らは、社会での居場所を喪失し、“違法な物を使うことで絆を深める場”に出入りするようになり、お酒やドラッグに依存してしまう」 苦痛や孤独を埋める場を求め、そこに刺激があると脳からは快楽物質が分泌される。そして、気が付かないうちに……依存症は自覚のない病気でもあるのだ。 ▽山下悠毅(やました・ゆうき) 精神科専門医・精神保健指定医。日本外来精神医療学会理事。近著に「彼らが見ている世界がわかる 依存症の人が『変わる』接し方」。