千葉・幕張メッセで「ブラタモリ」!? なぜ地球科学の学術大会のテーマになった?
「正確さ」と「分かりやすさ」の両立
セッションは休憩を挟んで3時間以上行われ、その中で過去に番組に案内者として出演した専門家が多く発表した。その中で大きなテーマの一つになったのは、「正確さ」と「分かりやすさ」の両立だ。 「富士山」の回などで案内人を務めた静岡大学の小山真人教授は、「(番組のスタッフ側から)中身を単純にわかりやすくする方向への強い要望、『単純化圧力』がある。専門家にとってはすごくつらい部分だ。このような圧力に負けてしまったと思われる回もあるが、こうした圧力とたたかいながら、ギリギリの選択をして説明していくというのは専門家にとってアウトリーチ能力が試される」などと話した。 また、「秩父」「長瀞」の回に出演した埼玉県立自然の博物館の井上素子・主任学芸員は『ブラタモリ』のすごさについて「ほとんどの人がまったく興味を持っていない地球科学的な話題を『面白い』と感じさせること」としたうえで、「わかりやすくするためには、正確性を犠牲にする勇気をもたなければいけない。視聴者はタモリさんが知的に楽しむ姿に同調して面白さを感じている。地球科学を楽しむ姿を見せることこそが最大のアウトリーチ。細かいところには目をつぶる修行が必要」などと語った。
専門家にとっても「学び」の多い番組
ちなみに、専門家は『ブラタモリ』に出演し、どのような感想を持ったのだろうか。 発表者の一人で、「十和田湖・奥入瀬」の回に出演した秋田大学の林信太郎教授は、「案内人には番組の科学的妥当性を担保するという社会的責任がある。番組と同時進行で、ツイッターで批判的な意見をつぶやく地球科学関係者もいて、案内人になるとそのプレッシャーが大きい。ただ、多くの国民が視聴する番組で、科学者の努力では到達し得ない多くの国民へのアウトリーチができるめったにない機会だった」と述べた。 萬年主任研究員と共にコンビーナを務めた琉球大学の尾方隆幸准教授は、「沖縄・首里」の回などで案内人を務めたが、「番組で扱われるストーリーは、地球科学以外の話題ともシームレスに連結している。研究者として隣接する分野が何をしているのかを学ぶ機会を得られる」と語る。 セッション終了後、尾方准教授は「地球科学という学問の裾野を広げていくきっかけにしたいと思い、今回『ブラタモリ』をテーマにした。私たち専門家に評価の高い『ブラタモリ』について、これまできちんと分析したことはなかったが、会場もいっぱいとなり、この取り組みは成功したといえるのではないか」と話した。尾方准教授によると、今回のセッションの内容は、月刊「地理」(古今書院)の特集にもなる予定だという。 飯田和樹/ライター・ジャーナリスト(自然災害・防災)