北朝鮮のサイバー攻撃、ソニー本社と安倍政権に火の粉
米映画会社ソニー・ピクチャーズエンターテインメントが北朝鮮のサイバー攻撃に屈するかたちで映画公開を中止したことが波紋を広げている。米メディアは「ソニー」の判断が表現の自由を損なう行為だと糾弾。ソニー本社による作品内容への事前介入も明らかになり、日本政府にもあらぬ“疑いの目”が向けられている。(河野嘉誠)
米メディアが問題視 ソニー本社の事前介入
ソニー・ピクチャーズは今年11月から、「平和の守護者(GOP)」と名乗るハッカー集団からサイバー攻撃を受けていた。ハッカー集団は、12月25日に公開予定だった北朝鮮の金正恩第一書記の暗殺を題材としたコメディー映画『ザ・インタビュー』の公開中止を要求しており、当初から北朝鮮との関連性が疑われていた。 大規模なハッキングにより、ソニー・ピクチャーズの未公開作品、出演者のパスポート情報、幹部の秘匿メールなどが流出した。その中には、今年8月から10 月にかけて、ソニーの平井一夫社長兼最高経営責任者(CEO)とソニー・ピクチャーズのエイミー・パスカル共同会長の間でやり取りされたメールも含まれていた。 平井社長はメールの中で、『ザ・インタビュー』で金正恩1書記が死亡する場面の修正を要求。パスカル会長を含めソニー・ピクチャーズ側から強い反発があったものの、最終的には同作品で主演・共同監督を務めるセス・ローゲン氏が修正を一部受け入れることで妥協した。 今回の事件に関して、NYタイムズやCNNなど米メディアの取材を受けた北朝鮮問題が専門で早稲田大学国際教養学部の重村智計教授は「米メディアは、ソニー本社が現場に介入しただけでなく、劇場公開の中止も要求したのではないかと疑っている。その背景には、日本政府の圧力を想定している」と話す。 米紙ニューヨーク・タイムズは12月15日に掲載した記事で、ソニー本社社長が製作サイドへ注文をつけるのは、「ソニー・ピクチャーズの25年の歴史で初めて」と報じた。NYタイムズは記事のなかで、ソニー本社が異例の現場介入をし、作品をトーンダウンせざるを得なかった背景に言及。「北朝鮮とデリケートな拉致交渉の最中にある日本政府が圧力をかけた可能性がある」とする、複数のアナリストの見立てを紹介している。 だが、重村教授は「拉致交渉を停滞させ続けている北朝鮮に対し、安倍政権が今の段階で譲歩する動機はない」と述べ、「実際には、総連関係者の要請を受けた経済人や政治家がソニーへ善処を促した可能性が高い」と分析する。では、なぜ日本政府が疑われたのか。 米主要メディアは12月に入ってから、安倍晋三首相の「歴史認識」と「メディアへの圧力」という論点をたびたび提起していた。こうした「表現の自由を抑圧する日本政府」という米メディアの捉え方が、今回の報道姿勢に影響した面もあるのではないか。