〈暗殺未遂後、トランプの勢いは完全ストップ?〉シミュレーション「ハリス対トランプ」2重、3重の「ガラスの天井」
DEI候補と「DEI採用」
これに対して、トランプ前大統領とMAGA共和党はどのように対抗していくのだろうか。 米有力紙ワシントン・ポストによれば、議会共和党下院に向けて、これまでハリス副大統領を批判する際に用いた「DEI候補」や「DEI採用」を使用しないように党幹部から指示が出たという。議会共和党は、これまで黒人女性のハリス副大統領は、自分の実力ではなく、DEI政策のお陰で選ばれた候補と難癖を付けてきた。「D」は多様性(diversity)、「E」は平(equality)、「I」は包摂(inclusion)を指す。共和党幹部は、この用語とハリス副大統領への「言いがかり」が共和党への批判となって返ってくることを恐れたのである。 しかし、共和党がハリス副大統領の人種やジェンダーへの攻撃を控えても、トランプ前大統領は支持基盤を構成する白人至上主義者や白人労働者の結束を高めるために、人種およびジェンダーを利用するかもしれない。 トランプ氏の伴走者であるJ.D.バンス副大統領候補は、2021年に米FOXニュースとのインタビューの中で、「子供のいない猫好きの女性たち」と発言したことに関して、目下、集中砲火を受けている。 米ABCニュースと調査会社イプソスの共同世論調査(2024年7月26~27日実施)によれば、バンス氏の好感度は、「好感が持てる」が24%、「好感が持てない」が39%で、「非好感度」が15ポイントも上回った。前回の調査(同月19~20日)と比較すると、「好感が持てない」が8ポイント上昇した。 しかも、バンス副大統領候補に対して「意見がない」と「分からない」の合計は、36%であった。この数字は取りも直さず、彼の知名度の低さを示している。
オバマの影響力
民主党大統領候補指名をほぼ確実にしているハリス氏の副大統領候補は、一体誰になるのだろうか。米ABCニュースによれば、ハリス氏は民主党副大統領候補を8月7日までに決め、その後、副大統領候補と一緒に激戦州を訪問するという。 民主党大統領候補をリサーチし、ハリス副大統領に報告するチームのヘッドは、オバマ政権時代に司法長官を務めたエリック・ホルダー氏である。 ボルダー氏のチームは、対象となるハリス氏の複数の副大統領候補に対して、審査書類(vetting paperwork)を提出させ、彼ないし彼女のバックグラウンドを調査する。バックグラウンドには、借金、異性問題、家庭内暴力や過去の発言などが含まれている。 米紙ワシントン・ポスト(7月22日 電子版)やボストン・グローブ(同月23日 電子版)は、2008年米大統領選挙でオバマ選対の本部長を務めたデイビッド・プラウフ氏が、ハリス選対に加わる公算があると報じた。仮にそうであるならば、ホルダー氏とプラウフ氏はコンタクトをとり合い、意見交換をして連携しているとみてよい。 何より、ハリス副大統領自身がバラク・オバマ元大統領の熱烈なファンであることも特記しておこう。ハリス氏は、2008年米大統領選挙において、オバマ元大統領が07年2月10日に中西部イリノイ州スプリングフィールドで出馬宣言を行った際、演説の会場に出向いている。 また、ハリス氏は同大統領選挙において、オバマ支持を表明し、中西部アイオワ州の民主党党員集会において、オバマ氏の勝利を祝う姿が映されている。 2020年の民主党全国大会で、ハリス氏の副大統領受諾演説の前に、彼女を紹介したのもオバマ元大統領であった。そして、今回、バイデン大統領に、トランプ前大統領に勝利する道は狭まっており、現実を直視するように促したのも、オバマ元大統領であった。 仮にハリス副大統領が第47代大統領に就任した場合、オバマ元大統領の影響力は強くなるだろう。 以上は、ハリス副大統領に対するオバマ元大統領の影響力であるが、オバマ氏は黒人やヒスパニック系に対して、現在も変わらず高い人気を得ており、彼らの投票行動を左右する影響力もある。