「下位指名の成功こそ、スカウト冥利に尽きる」《左腕王国》を築き上げ、無名の選手が驚異の活躍…横浜DeNA元スカウト部長・吉田孝司氏が明かす「驚きのドラフト戦略」
宮崎の成功が現在のドラフトにつながった
――その2012年6位の宮崎敏郎から、2016年9位・佐野恵太、2017年9位・山本祐大、2021年6位・梶原昂希と、4人の最下位指名選手が今年のレギュラーになっています。その他、2017年8位・楠本泰示、2021年6位・蛯名達夫なども含め……この下位指名の驚異の活躍ぶりは一体なんなのでしょうか。 「僕が関係したのは2020年までだけどね。すべては最初のドラフトで宮崎敏郎の成功が自信になったんだよね。走れないし守れもしないけど、バッティングには光るものがあった宮崎を獲得した。それが成功したことで、自分だけが見つけた選手を下位で獲るということができるようになった。他球団がリストアップしていない選手を見つけるために、どこよりもとにかく早く動いて、各地に足を運んでね。一芸に秀でた選手をひとりふたり候補として持っておくんです。 佐野恵太も打撃力は魅力的だったが、守備ができないということで見送られていた。というのも、元々がキャッチャーで、大学の時にファーストをやっていたけど、いつも横から投げていてね。これはスローイングに難があるんじゃないかって。これも入団してみると、合同自主トレでは上から投げている。『おまえ、上から投げられるのか』と聞いたら『投げられますよ』とあっさり言われた。それなら外野もできるだろうって今に至っている。 ただ、佐野を獲れたのは当時の球団代表の三原(一晃)さんの大ファインプレーだね。決められた予算もある中で、獲得できる予定人数は終わっていたんだけど、佐野を獲ることを認めてくれた」
一芸に秀でた選手を掬い上げる
――球界屈指となるバッターの才能を掬い上げた大ファインプレーですね。2017年9位の山本祐大は、もっと無名な独立リーグの滋賀ユナイテッド(現・滋賀GOブラックス)出身。身体の線も細くてドラフト全体の最下位指名でした。 「山本祐大は、スカウトの小林晋哉から『肩がいいのが独立にいる』と推薦されてね。キャッチャーは肩が一番大事なんだよ。バッティングは入団してから練習次第でどうにでもなるんですよ。ただ、正直ここまで打てるようになるとは思わなかった。これは本人の努力の賜物ですよ。ドラフトの時点では順位は付くけど、その後成功するかどうかというのはまた別の話。育成とかいろんな要素があるんだろうけど、こればっかりはプロの中に入って、実際にやってみなければわからないよね」 ――どんなに優れたスカウトが選んだとしても、やるかどうかは選手自身ということですね。 「そうなんですよ。指名した選手が活躍してもね、これはスカウトの力というよりも選手たちの努力ですから。スカウトがメシを食っていけるのはすべて選手のおかげ。活躍してくれなければ僕らがハズレと言われるんだ(笑)。 僕らは必死に選手を追いかけて、見続けて、いいところを探し出し、プロで活躍する未来の姿を描きながら選手を選んでいる。プロで活躍できるという確信と、活躍してほしいという願いを持ってね。だけど全員がプロで成功できるわけじゃない。だからこそ、選手に対しての感謝だけは絶対に忘れないようにしないとね」 ………… 【もっと読む】プロ野球で「もっとも愛された監督ランキング・ベスト30」5位古田敦也、3位栗山英樹…1位に選ばれた「監督の名前」
村瀬 秀信(作家)