「下位指名の成功こそ、スカウト冥利に尽きる」《左腕王国》を築き上げ、無名の選手が驚異の活躍…横浜DeNA元スカウト部長・吉田孝司氏が明かす「驚きのドラフト戦略」
「マスコミに喋っちゃうから、中畑には当日まで教えなかったよ(笑)」
――即戦力としての力は十分に発揮してくれましたが、その後の伸びしろという部分ではどうですか。 「みんな、持っている才能は素晴らしいものですよ。濱口なんかもいいボール持っているんだ。ただ、プロはその後も改良していかなければ生き残っていけない。僕が現役の頃の高橋一三もまっすぐとカーブだけ。コントロールもなくて、1-3(ワンスリー)と言われていた。それからスライダー、フォークを覚えて20勝。スクリューボールを覚えて20勝と進化して、長いこと現役をやれた。 ただピッチャーは新球種、特にチェンジアップを覚えると必ずまっすぐの力が落ちる。そこで半年ぐらいは掛かるんだけど、小手先に逃げるんじゃなくて、まっすぐを戻す努力をしないとね。三嶋も石田も、濱口も、自分の一番いい球はまっすぐなんだよ……って言ってあげたいですよ」 ――前エースの今永と現エースの東は共に単独指名で入札できましたが、この辺の指名巧者ぶりには他球団との駆け引きなどはあるのですか? 「それはないね。競合にならなかったのは幸運だったよ。球団によってはドラフト前に公表して他球団をけん制するようなことはあるのかもしれないけどね。うちは何もやらなかった。強いて言えば、中畑には当日まで教えなかったことかな。あいつに喋ると、みんなマスコミに言っちゃうから(笑)」
下位指名での成功こそ、スカウト冥利に尽きる
――その後、「即戦力」縛りを脱したかのように、2018年に高校生野手の小園海斗を指名して抽選で外したところから、2019年森敬斗、2021年小園健太、2022年松尾汐恩と、ドラフト1位で高校生の指名が続くようになりました。 「僕は入江大生、牧秀悟を指名した2020年までしかいなかったから、小園健太以降のことはわからないけどね。ただ、やっぱりその頃になると戦力もある程度整ってきて、次の世代の高校生を上位で指名する余裕が出てきたんですよ。ショートで小園を外して、翌年に森敬斗だね。足と肩は抜群だった。今年やっと出てきたけど……まだまだ頑張らないとね。 それまでの即戦力最優先時代に高校生を指名できたのは、2013年に5位で東邦高校の関根大気を指名して以来、下位で1~2人。本格的に高校生を解禁しはじめたのは、CSに初出場した2016年だろうね。あの年は3位で松尾大河、4位で京山将也、5位で細川成也と指名した。細川は今やチームを出て、中日で主軸になっているけどね。当時のスカウトの連中はみんな喜んでいるよ。楽天にトレードされた伊藤裕季也とかもね、テレビやラジオをチェックして応援しているよ」 ――他球団へ行っても惚れた選手の動向は気になるものなのですね。 「これと見込んだ選手は、やっぱりね。ドラフトで1位、2位になる選手は誰が見てもいい選手であることは間違いない。あとは指名の順位だけでね。ドラフトはね、やっぱり下位指名こそが腕の見せ所。上位指名は活躍して当たり前。勝負ができる下位指名での成功こそ、スカウト冥利に尽きるというものですよ。そういう意味では2012年の6位で指名した宮崎敏郎が成功してくれたことは本当に大きかった」