映画『リンダはチキンがたべたい!』監督インタビュー
あらゆる秩序、制約を壊す、アナーキーでカラフルなフレンチ・コメディ・アニメ
ストライキの日に、どうしてもチキンを食べたいリンダと、チキンを手に入れるべく奮闘する母が巻き起こす騒動を描くフレンチ・コメディ・アニメ『リンダはチキンがたべたい!』(4月12日公開)。2023年、第76回カンヌ国際映画祭Acid部門選出、アヌシー国際アニメーション映画祭2023長編アニメーション部門で最高賞クリスタルを受賞、さらに第49回セザール賞 最優秀アニメーション作品賞を受賞したカラフルでワイルドな物語は、観る者の生き生きとした子ども心を呼び覚ましてくれる。企画・脚本・監督を手がけるのは、気鋭の映画作家キアラ・マルタとアニメーション作家セバスチャン・ローデンバック。プライベートでもパートナーの二人は、あっちこっちへ自由に飛び回るいたずらっ子のような映画を、どうやって生み出したのか。その秘訣を探る。 【記事中の画像をすべて見る】
──近頃子どもに見せたいと思えるアニメーションが少ないと感じていたそうですが、なぜそう思ったのでしょうか。 キアラ・マルタ(以下、キアラ):子どもは、大人が見せなければ、ほかに何が存在しているかを知らないままなんですよね。それはすごく可哀そうなことだし、危険な状態を周りにいる大人がつくってしまっているんじゃないかと。乱暴な言い方になりますが、例えば、暴力をふるう親のもとで育った子は、親はそういうものだと認識します。食べ物も同じで、例えば毎日ひたすら人参を与えていたら、カリフラワーの存在を知らないで育つ。それはやっぱり育てる側の責任であって、色々なものを子どもたちが発見できるような環境をつくっていかないといけないし、それが生きるということで、そういうことを教えてあげないと不公平ではないかと思ったんです。 ──直接影響を受けたものでなくても、お二人が子ども時代に観た作品で心に残っているものはありますか? セバスチャン・ローデンバック(以下、セバスチャン):子どもの頃、親に映画に連れていってもらうことは少なかったけれど、覚えているのは『バンビ』(42)と『E.T.』(82)かな。世界を知ろうとしている年代に観たものは、それがいい作品でもそうじゃなくても、初めての体験としてすごく残るものじゃないですか。自分がそうやって覚えている映画は、きっといいものだと今も思いますが、大人になって見返すと、なぜこれをいいと思ったのか不思議なものもありますよね。他にはバンド・デシネ(フランスやベルギーをはじめとするフランス語圏の漫画のこと)をたくさん読んだり、両親の友人がやっていた人形劇を観に行ったりもしました。 キアラ:今『E.T.』と彼が言いましたが、よく覚えてるのは、「『E.T.』は観てはいけない」と言われたことです。両親と兄は行ったのに、まだ自分は幼くて、「あなたには早い」と見せてもらえなかった。そのときの不満がすごく残っています。子どものときに観た、イタリアのルイジ・コメンティーニ監督の映画『天使の詩』(65)も、不正義や死についての物語でよく覚えてます。小説だと『若草物語』は、登場人物に自分を重ね合わせたり、心を寄せたりしていましたね。