映画『リンダはチキンがたべたい!』監督インタビュー
──今、色んな顔をしているとおっしゃっていましたが、最近、世界が単色化していてつまらないと感じていたので、キャラクターの色も違って、フォルムも顔もくるくる変わるのがすごく素敵に映りました。それぞれに別の色をつけることは、最初から決めていたんですか? セバスチャン:それは最初から考えていたことです。今、世界がモノトーンだとおっしゃったように、まさにそういうふうに感じていたので、それとは違うものをつくってみたくて。今の世界は子どもらしさが失われていると思うので、子どもらしさとシンプルさを大事にしました。あとは現実的に、1つのキャラに1色しか使わないと、低予算で済むんですよ。だから、利点しかなかったんですよね。 キアラ:例えば、団地の真ん中で子どもたちがみんな集まって反抗している様子も、普通だったらネガティブなイメージになりがちですが、カラフルな色であることで、すごく楽しそうに映るなと。怒っている子どもたちが楽しそうに見えるというのも、カラフルな表現のメリットだなと思いました。 ──確かに。どうやって色を決めていったのでしょう? キアラ:色に一つひとつ意味を持たせたわけではないのですが、リンダは太陽のような子だし、フランスでは、多くの子どもたちが黄色いレインコートを着ていて、ちょっといたずらっ子のイメージもある色なので黄色にしました。伯母のアストリッドは、サバサバしている人だからあえてピンク色にしてみたり。紺色の制服を着た警察官はフランス語で通称「BLEU」と呼ばれているので、そのまま青色を使ったり。リンダの家族は黄色系として橙にしたり、そういう感じで選んでいます。
──本作のリンダのずる賢さと愛らしさが子どもらしく、すごくリアリティがありましたし、子育てをする親の大人になれなさみたいなものも描かれています。こういったリアルな物語や多彩な登場人物は、どうやって浮かび上がったものなのでしょうか。 キアラ:私は完璧ではない人がすごく好きですし、子どもも完璧でない大人や、失敗する大人を見るのが大好物ですよね。やっぱり、そこを子どもたちに見せてあげたいなと思った。子ども向けの映像作品の中の大人は、理想の大人として描かれていて、全くありのままではないなと感じていたので、子どもが見ているそのままの大人の姿を見せたかったんです。それに、大人って、不思議とある一定の年齢を超えてしまうと、子どもがどういうものかをすっかり理解しなくなってしまう。けれども、実は子どもは成熟していて、いろんなものを見ている。それに、今の私たちの後を歩く若い子たちが今後の世界をつくっていくわけですから、彼らにすごく期待しているし、子どもたちを見ていると、自分よりもはるかに優れていて面白いと感じるんですね。そういう思いからも、大人たちを少し馬鹿っぽく描いています。 ──確かに。本作を観ながら、大人になると忘れてしまいがちな幼い頃の爆発的なエネルギーや、ちょっと手に負えないアナーキーさとか、取り戻せるものがたくさんあるように思いました。 セバスチャン:自分たちの映画そのものが、よく教室の中に1人いる、周りをかき乱してしまう子どもみたいな作品であってほしいなと思っていました。 キアラ:確かに挑発的な作品ではありますよね。公共の場でやってはいけないとされることをやるような。ただ、あまりにも同じような秩序やルールに繰り返し囚われているので、大人も少しは解放されるべきなんじゃない?と思ったんです。この映画を、子どもだけではなく一部の大人たちもすごく喜んでくれているのは、やっぱり真実が描かれているからではないかなと。