映画『リンダはチキンがたべたい!』監督インタビュー
──フランス郊外の団地は、低所得者層の移民が住み、警官の過剰な武力行使が行われる場所として映画の中で描写されることが昨今多い印象があったのですが、本作では全く違うイメージで描かれていますね。団地を舞台に選んだ理由とは? キアラ:確かにフランスの郊外は社会問題をたくさん抱えていますが、私たちはそれに対するプロパガンダ映画をつくるつもりは一切なくて。今回は、子どもたちが自由に移動できる環境を考えると、都心ではないなと思ったんです。例えばメトロが走っているようなところだと、子どもたちは自由に乗り降りできないので、そうすると郊外になる。舞台となる場所は特定していませんが、ある程度都会でありつつ田舎に近い、フランスのどこかの地方都市の郊外というイメージから、団地になりました。本作では、暴動が起きてもすごく可愛らしいとか、煙が上がっても武器や兵器から出たものではないとか、投げつけるものがスイカだとか、あえてちょっとずらしを加えることで、警察の不条理さを優しく馬鹿にしたいなという思いはありました。今現在、平和的なデモに対しても大量の機動隊を送り込んだりしている警察に、理不尽さを感じていることは確かなので。 ──最後に、お二人がどんな子どもだったかを聞いてもいいですか? キアラ:自分はすごく育てづらい子どもだったんだろうなと推測しますが、将来レジスタンスの一員として活躍できるんじゃないかというくらい(笑)、母から相当厳しく育てられました。顔を水に沈められて謝るまで止めてもらえない、みたいな思いもしました。 セバスチャン:自分はとてもシャイで、人と違うことをするのが怖くて、とにかく目立たないようにみんなの列に同じように並ぶような子どもでしたが、絵を描くようになってからだいぶ変わったんですね。それがなぜかは自分でもよくわからないんですが、仕事で作品をつくり出してからは顕著で、最初から普通の人とは違うものが自然とできていました。あくまで作品においてですけれど。そこが私たち二人の共通点なのかなとも思います。 ●『リンダはチキンがたべたい!』 フランスのとある郊外の公営団地に二人暮らしをする8歳のリンダと母ポレット。ある日、憧れの指輪を盗んだとママに勘違いされ、間違いを詫びる母に、「明日、パパのパプリカ・チキンがたべたい!」と言う。次の日、二人はチキンを買いにでかけるが、街はストライキ中。亡き父の思い出とチキンを求めて奔走する母と娘は、警察官やトラック運転手、団地の仲間たちを巻き込んで大騒動を引き起こすーー。 原案・監督・脚本_キアラ・マルタ、セバスチャン・ローデンバック キャラクターデザイン_セバスチャン・ローデンバック 音楽_クレマン・デュコル 声の出演_メリネ・ルクレール、クロチルド・エム、エステバンほか 日本語吹き替え版キャスト_落井実結子、安藤サクラ、リリー・フランキーほか 提供_アスミック・エース、ミラクルヴォイス、ニューディアー 配給_アスミック・エース 2023年/フランス=イタリア/フランス語/シネマスコープサイズ/5.1ch/76分 ©2023 DOLCE VITA FILMS, MIYU PRODUCTIONS, PALOSANTO FILMS, France 3 CINÉMA 4月12日(金)全国公開 ●Chiara Malta キアラ・マルタ/子ども時代をテーマにした3部作を含む短編映画を数本監督し、数々の国際映画祭で入選、受賞。監督作に、長編ドキュメンタリー『Armando e la politica』(08)、長編映画『Simple Women』(19)がある。フランスのテレビシリーズ「 Chronicles of the Sun」のエピソードを定期的に監督しており、現在はイタリアでグルンランディアとフィデリオが製作するシリーズの第1シーズンを撮影中。『リンダはチキンがたべたい!』は彼女にとって、初の長編アニメーション監督作品である。 ●Sebastien Laudenbach セバスチャン・ローデンバック/映画監督、イラストレーターで、ENSAD(フランス国立装飾芸術高等学校)教授。数々の国際映画祭で入賞した短編映画のほか、書籍の表紙やミュージックビデオも手がけている。 長編映画『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』はカンヌ国際映画祭に出品され、アヌシー国際アニメーション映画祭で受賞、セザール賞にもノミネートされた。 Photo_Wataru Kitao Text&Edit_Tomoko Ogawa
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