【相撲編集部が選ぶ夏場所5日目の一番】返り入幕の「新生・宝富士」が力強く連勝!“30代トリオ”が全勝でトップ走る
この年になって気持ちはむしろリフレッシュされたという
宝富士(寄り切り)大奄美 「タケルフジ」が休場してしまった今場所だが、代わりに⁉「タカラフジ」が連勝街道をばく進だ。 今場所、返り入幕の37歳がすごい。この日も188キロの十両大奄美をグイグイ攻めて寄り切り。これで初日から5連勝だ。 この日は、ここまで4日のうち3日成功していた得意の左差しを徹底的に嫌われて果たせず。それでも下から攻めて前に出る、という姿勢は変わらなかった。この日は左は上手からの前ミツとなったが、いい位置で取って引きつけ、右はおっつけて相手の巨体を浮かせていっぺんに持っていった。 【相撲編集部が選ぶ夏場所5日目の一番】勝ちたい誘惑吹っ切った。「ニュー霧馬山」が難敵乗り越え大関へ前進 「左が取れたので、一気に前に出ました。引き落とされないように出ました。きょうはいつもより緊張して足がフワフワしましたけど、しっかりと自分の相撲が取れました。(警備担当、近大同級生の)千田川親方(元幕内德勝龍)が『優勝しろよ』と冗談を言ってくれて、楽になりました」と宝富士。余裕しゃくしゃくのコメントもベテランの味わい。相撲も完全に力強さが戻ってきた感じだ。 かつては関脇も務めた実力者。ただ最近は左上腕筋を痛めた影響もあり、精彩を欠いていた。令和5年1月場所以降は前頭二ケタの地位が続き、今年1月場所に前頭16枚目で6勝9敗に終わって、3月場所では平成25(2013)年1月場所以来、11年以上守ってきた幕内の座を失う。同時に大きなモチベーションとしていた幕内連続出場記録が史上6位の990回でストップした。 普通なら、これで気力がなえてしまっても不思議ではないが、それをもプラスに転じる力が、宝富士にはあった。「この一年は、記録ばかりを気にする自分がいた。今場所は何番勝てば幕内に残れるとか、そんなことばかりを考えていた。これで気にせず相撲が取れる」と、この年になって気持ちはむしろリフレッシュされたという。 3月場所、十両筆頭で勝ち越し、1場所で幕内復帰。そしてこの快進撃だ。相撲っぷりも、左差し右上手という型はもちろん目指すが、「左差しとか廻しにこだわらず、前に出る」とリフレッシュ。それがこの日の白星にもつながった。今場所、伊勢ケ濱部屋には旧宮城野部屋の力士が加わり、環境が変わったが、それも「刺激しかない」と大歓迎する気持ちの若さも、この快進撃の要因の一つかもしれない。 5日目を終え、全勝はこの宝富士のほか、宇良、御嶽海(ともに31歳)と、30代の3力士となった。元大関の御嶽海も、「いっぱいいっぱいです」といいながらも、連日、頭を上げない取り口で白星を重ね、なんとなく相撲に昔の面影が戻ってきたよう。 御嶽海は「30代の相手も少なくなってきましたね」とつぶやいていたが、筆者のようなおじさんファンにすれば、肩入れしたいのはやはり若手よりベテラン力士。世代交代を思わせる若手の活躍もワクワクするが、まあいずれは若者のほうが勝つのが世の習い。ギリギリまでそこにあらがおうとするベテランの姿があってこそ、両方が輝くはずだ。 今場所、これらのベテラン勢がどこまで勢いを持ち続けられるかは分からないが、ぜひ限界まで世代交代にあらがう美しい姿を見せてもらいたい。 この日、優勝を争う上位陣は、琴櫻が翔猿を寄り倒し、大の里は物言いのつく相撲になったが軍配通りに白星を得て、ともに1敗を守った。五分の星だった豊昇龍と若元春も白星を先行させてくらいつき、ほぼ情勢には変化なし。関脇阿炎との1敗対決に勝った大栄翔が、争いに参入してきた、というところか。 いよいよあすは琴櫻と大の里が対決。V候補一番手と対抗馬の激突だ。まだ6日目とはいえ、今場所の趨勢を左右する大一番と言って差し支えないだろう。 文=藤本泰祐
相撲編集部