【南海トラフ】水深2650mの海底での調査作業 地震専門家らが進める「ゆっくりすべり(スロースリップ)」の研究 「『ゆっくりすべり』がなければ、能登半島地震は起きなかった」巨大地震の予測への挑戦に密着
日本で最初に「ゆっくりすべり」が発見されたのは、愛媛県と大分県の間にある豊後水道。2024年4月17日、豊後水道を震源とするマグニチュード6.6の地震がありましたが、どのような「ゆっくりすべり」を捉えていたのでしょうか―。
(井出教授) 「豊後水道で『ゆっくりすべり』が定常運行しているもの以外にも、何か大規模な“すべり運動”がたまたま起きていて、それが起きたタイミングでマグニチュード6.6の地震が起こったと。いろんな『ゆっくりすべり』の法則が、実験室レベルでわかってきているけど、実験室では、せいぜい小さいサイズのサンプル。その中で起きた現象が、本当に地下100kmで起きているのかというと、そんなに簡単なものではない。地下の、岩盤と岩盤がすれ違っているところは、岩が壊れてすり減ったりしていますし、場合によっては化学反応も起きたり、ぐちゃぐちゃになっている。マグニチュード8とか100kmのスケールで、我々の社会に影響を及ぼすような現象を理解するには、まだまだいくつか越えなければいけないハードルがある」
「ゆっくりすべり」のきっかけは“水”?内陸型の地震でも関連性が指摘「日本全国どこでもある可能性があると思います」
「ゆっくりすべり」は海だけではなく、内陸型の地震でも関連性が指摘されています。能登半島の地震の研究を続ける京都大学防災研究所・西村卓也教授は、ある仮説を立てています。 (京都大学防災研究所・西村卓也教授) 「断層はもともと摩擦力で止まっていますけど、その中に流体や水があると滑りやすくなります。そこで『ゆっくりすべり』を誘発したのではないかと」
西村教授のシナリオでは、「流体が入ったことで地下の断層がゆっくりすべり、群発地震を引き起こす。さらに流体の量が増えるにつれて、広い範囲で『ゆっくりすべり』が誘発された。これが2023年5月のマグニチュード6.5の地震につながり、最終的には、2024年1月1日の地震の発生にも影響を与えた」というのです。 (西村教授) 「『ゆっくりすべり』の断層と、マグニチュード7.6の能登半島地震が起きた断層が一連につながっているかということは、まだよくわかっていません。ただ、周辺で『ゆっくりすべり』が起こっていたのは間違いなくて、それもかなり近接した場所で起こっていたので、マグニチュード7.6を起こしやすくなるような力を『ゆっくりすべり』が起こしていたということは、ほぼ確実だと思います。この『ゆっくりすべり』がなければ、おそらく1月1日に能登半島地震は起こらなかった。もうちょっと後に起こるはずだった地震を、『ゆっくりすべり』が早める効果があって、地震が起こってしまったということになると思います。能登半島の場合は、大きい地震を起こすだけのポテンシャル(可能性)がある活断層があって、その周辺で『ゆっくりすべり』が起こったので、最終的にその引き金になってしまった。『ゆっくりすべり』があって、その周辺の大地震を誘発するということは、日本全国どこでもある可能性があると思います」
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