故郷の伝説や民話を熊本弁交えたオリジナル台本で…口承文化を次代に「そぎゃん話知らんだった」らうれしい
「肥後の歴史物語と民話の会・語り座」の代表、寿咲亜似さん(75)は、ラジオパーソナリティーだった30年ほど前から故郷の伝説や民話を、熊本弁を交えたオリジナルの台本にまとめて語り続けてきた。「子どもからお年寄りまで楽しめる口承文化として、次代に引き継いでいきたい」と話している。(小波津晴香) 【写真】福田沙紀さんが熊本弁、阿蘇で撮影した短編映画「シキ」
2日の熊本市であった公演では、寿咲さんが脚本・構成・演出を担当した新作「檜垣」「小松女院」が上演された。前者は同市西区の蓮台寺、後者は熊本県小国町の鏡ヶ池に伝わる伝承に基づく創作物語だ。「檜垣が住んだ庵の跡に建った、蓮台寺というお寺です」。スクリーンで写真やイラストを紹介しながら伝説を紹介した寿咲さんは、自ら役者としても出演した。
華やかな衣装に、箏やシンセサイザーの生演奏も加わるなど趣向を凝らした舞台だ。観客に「地元のそぎゃん話、知らんだったと驚いてもらえるのが一番うれしいです」と語った。
自身の原点は小学校入学前、緑川の河川敷などで祖父に聞いた昔話だ。「じいちゃん話ばしてはいよ、が口癖で、おもちゃやテレビはなかったけど、話を聞くのが楽しみだった」。自宅近くの橋(六弥太橋)の名前の由来となった藤井六弥太の伝説は、加藤清正の猛攻を小西行長方としてしのいだ武勇伝で、激しい戦場の情景が鮮やかに頭に浮かぶようだった。
20歳代のとき、夫の転勤先だった東京でアナウンスアカデミーを修了し、結婚式の司会やナレーターなどの仕事に携わるようになったのも、子どもから高齢者まで世代を問わず、豊かな想像力を育む語りの力を信じているからだ。
熊本に戻って10年が過ぎた1996年、開局した熊本シティエフエムで民話や伝説を語る30分番組「おはなしの森」を担当。これをきっかけに県内の民話の語りのための台本化に取り組み始めた。各地に残る民話や伝説は、自治体史などに掲載されているものの、多くは標準語の書き言葉となっていた。