東野圭吾作品が回転寿司のようにクルクル…!? 韓国書店を訪れた女優・南沢奈央が語る旅と読書
旅読書のススメ
母と韓国に行ってきた。コロナ前は、母と毎年のように行っていたし、一人でも行くくらいに身近な場所だったが、今回は約5年ぶりとなった。 一人ではない旅で読書できるタイミングといえば、移動中か就寝前だろう。案外読めないのが常なのに、張り切って数冊の本を持っていってしまうのも常……。今回も2冊、カバンに忍ばせた。 羽田から韓国の金浦空港までは2時間ほど。食事をとって、できれば少し寝られたらなと考えるそばから、あっという間に着いてしまうだろうなと思い直し、席についてすぐに本を出した。 行きのフライトで読む本は、久しぶりの韓国への気持ちをさらに高めるべく、韓国の作品にしようと決めていた。そこで選んだのは、日本で6月頭に出版されたばかりの韓国の詩人ナ・テジュさんによる詩集『心がそっと傾く』だ。ちなみにフライト中、母の方も、「3日の休暇」という韓国映画を観ていて、これから始まる3日間の韓国旅への気持ちを高めているように見えた。内容はまったくわからないが。 韓国の作家さんによる小説やエッセイは読んだことがあったが、詩集は初めてだと本を開いて気づいた。韓国を味わおうと思って選んだものの、釜山、公州など、地名がときどき出てきたときに、韓国を感じるくらいだった。
黒河星子さんによる翻訳も洗練されていて、すっと心に入ってくるような言葉が並ぶ。特に好きだったのは、詩にまつわる詩だ。 〈いつかぼくを生かしてくれた 誰かの詩のように ぼくの詩よ、いま ほかの人のところに行って その人のことも 生かしてほしい〉 「ぼくの詩へ」という題が表すように、まさに詩人から詩へのメッセージのような詩だ。自分が詩をだれかに“届けたい”のではなくて、詩という作品になったら、もう自分の手元を離れて世界へ羽ばたいてほしいという、詩を信じる力強さと、そこに思いを託す切実さが感じられる。タンポポの綿毛が飛んでいく挿絵によって、未来への希望がより見えてぐっときた。 他にも「新しい詩」や「雲がきれいに見える日」では詩が生まれる瞬間が綴られていて、詩に対する愛が随所に溢れている。だから詩一篇一篇に体温のようなものがあり、読んでいるこちらにもあたたかさが広がってきて心地よい。 来年80歳になるとは思えないくらいの、ナ・テジュさんの清らかな感性に触れて、わたしもこんなふうに素直に物事に向き合っていたいと思うのだった。