鬼頭明里は“ラブコメ界”のクイーンだ 『アオのハコ』蝶野雛役は完璧なキャスティングに
近年のアニメを代表する女性声優の1人に鬼頭明里が挙げられる。代表作である『鬼滅の刃』では竈門禰豆子を演じ、多数の作品でクールなキャラクターからツンデレ、子ども役まで幅広く演じ分ける演技力を発揮してきた。 【写真】密かに思いを寄せている大喜を横目で見つめる雛 そんな鬼頭は今期の注目作『アオのハコ』に主人公の幼なじみという王道設定でありながら、“サブヒロイン”の立ち位置である蝶野雛役で出演中。ラブコメにおける鬼頭は『トニカクカワイイ』の由崎司や『ブレンド・S』の日向夏帆のようなツンデレキャラの印象が強いが、雛役では今までにない新たな一面を見せている。今回は『アオのハコ』の雛役を軸とした、ラブコメにおける鬼頭の表現力の幅広さについて分析したい。 ●『アオのハコ』雛役にみる引き出しの豊かさ 鬼頭が演じる雛は、新体操部に所属しており、中等部時代に全国4位の成績を残していることから、部内でも期待されている。主人公の大喜とは中等部時代から同じクラスで、幼馴染兼親友。雛は千夏先輩に思いを寄せる大喜をからかって楽しむ姿を見せる一方で、新体操へ真剣に取り組むストイックさも兼ね備えている多面性のあるキャラなのだ。 ラブコメにおいて鬼頭は『カッコウの許嫁』のエリカのように、まっすぐな明るさを持ったキャラクターを多く演じてきた。しかし、今回の雛役では一転。雛は明るく天真爛漫なだけでなく周囲の期待からくるプレッシャーや大喜への恋心など、複雑な感情を細やかに表現しているのだ。 雛は当初大喜への恋心を自覚していなかったから、大喜の千夏への恋を応援したりからかったりする余裕があったのだ。しかし大喜と千夏の距離が縮まっていることを知ると、心の中ではよかったと安心する一方で、徐々に自覚し始めた心の機微が描かれた。鬼頭の演技が光っているのは、雛の心の声だけでその感情を見事に表現している部分にある。 その後、雛は大喜に対する好意を意識し始めていき、これまでのように接することができなくなっていく。とあるきっかけで足をひねってしまい、保健室に行くため大喜に肩を貸された際には、心の中で「やめてよ。やだよ。気づきたくないんだって……」とつぶやく。普段の話し方より低めに抑えられた声からは、雛に芽生えた友情と恋心に対する大きな葛藤が感じられる。鬼頭の温かみのある声は、明るいシーンはもちろんのこと、切ないシーンでこそ真価を発揮するのかもしれない。