鬼頭明里は“ラブコメ界”のクイーンだ 『アオのハコ』蝶野雛役は完璧なキャスティングに
『鬼滅の刃』禰豆子役で魅せた「おはよう」の破壊力
鬼頭の代表作である『鬼滅の刃』の竈門禰豆子役でも、感情表現の豊かさが活かされていた。禰豆子にはほとんどセリフがなく、唸り声で喜怒哀楽や苦悩といった、内面的な感情を表現しなければならなかった。2023年放送の『テレビアニメ「鬼滅の刃」刀鍛冶の里編』の最終回では、鬼になって以降初めて「おはよう」と言葉を口にしたシーンがあった。鬼と人間、その狭間で揺れるようなたどたどしい声色が、繊細に感動を紡ぎ出し、多くの視聴者の心を揺さぶった。 鬼頭の演技スタイルは、視聴者に共感を促すことに長けている。ラブコメにおいて重要な役割である些細な心情の変化も汲み取ることができ、視聴者を物語に引き込むのだ。過去には『女神のカフェテラス』のコミックPVで、1人5役を演じたこともあり、その実力を活かした巧みな演じ分けを披露していた。元気な天然の子や小悪魔系大学生などを演じ分けており、ラブコメというジャンルに限定しても演じられる役柄は幅広い。 冒頭で挙げた『トニカクカワイイ』の由崎司役も、ただのツンデレキャラではなく、クールさと可愛らしいさを兼ね備えているのが特徴のキャラだった。それを鬼頭はあえて可愛くしすぎず自然体に演じ、感情が高まる瞬間とのコントラストを際立たせていた。 鬼頭は、キャラの内面的な葛藤を声の細やかなニュアンスで伝え、キャラクターにリアルな存在感を与えるスキルに長けている。雛に関して言うと、少し大人びていて時に無邪気な一面も見せる多面的な性格のため、演じるには感情の微妙な変化を捉える必要がある。鬼頭はそのバランスを見事に演じ分け、葛藤や成長を表現している。 雛のキャラクターは、一歩間違えると観客にとって鬱陶しく感じられる危険性もはらんでいる。しかし、鬼頭の演技のすごさは、そんな微妙なバランスを巧みに取っている点だ。特に、大喜をからかうシーンでは、彼女の表情や声のトーンに遊び心を加え、単なる嫌味や煩わしさを感じさせることなく、雛の可愛らしさを最大限に引き出している。 今期は『アオのハコ』以外に『2.5次元の誘惑』の橘美花莉や『妖怪学校の先生はじめました!』など、作品のメインキャラを多彩な役柄で演じている。続編が決まっている作品も多く、鬼頭の演技を耳にする機会はこの先も多い。鬼頭がどのような役を演じ、どのようにその役を演じ分けるのか、その変化に今後も注目が集まる。
倉嘉リュウ