明るい彗星候補「ATLAS彗星(C/2024 S1)」の消滅を確認
夢は夢幻に
しかし残念ながら、その夢は儚く散ってしまったようです。 彗星が太陽に最接近する際には、欧州宇宙機関(ESA)とアメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げた太陽観測機「SOHO」の視野に入ります。ATLAS彗星についても、太陽最接近の前後の様子が撮影できるため、その後の明るさの予測の大きな手がかりにもなります。 しかし、世界時2024年10月28日3時2分にSOHOのLASCO C2カメラ(※2)の視野内に入ったATLAS彗星は、その後明るさを低下させ、同日9時ごろまでには消え去ってしまいました。発見時の明るさからすると、彗星核の大きさが小さすぎたため、太陽に最接近する前に蒸発し切ってしまったと考えられます。 ※2…普段は太陽コロナの変化を観察するカメラ。 彗星が蒸発して消えてしまうこと自体は珍しい出来事ではありません。しかし、注目度の高い彗星だっただけに消えてしまったことを残念がる声も多くあります。太陽への接近前に分解して暗くなってしまうと予測された紫金山・ATLAS彗星が、予測が外れて太陽最接近を生き延びたことを考えると、どこか逆説的だと思えるかもしれません。 もっとも、明るい彗星がいつ出現するのかは予測が難しいため、次の天体ショーはすぐにあるかもしれません。ATLAS彗星が属するクロイツ群自体、紀元前317年に出現し分裂した彗星核を起源とし、それぞれの分裂核は数百年周期で太陽の周りを公転していると推定されています。2024年になってATLAS彗星が新たな彗星として発見されたように、他のクロイツ群の彗星が見つかる可能性はこの先もあるでしょう。 さらに言えば、彗星核が消滅するか否かの条件も、完全に解明されているとはいいがたいです。2011年に発見されたクロイツ群の1つである「ラヴジョイ彗星(C/2011 W3)」は、小さすぎて太陽への接近時に消滅すると予測されながら、実際には生き残りました。明るさの予測は引き続き困難を抱えていますが、新たな彗星に期待を寄せることは十分にできるでしょう。 Source “SOHO Movie Theater”.(ESA/NASA) Brett Tingley. “Watch comet ATLAS burn up as it flies into the sun (video)”.(Space.com)
彩恵りり / sorae編集部