くすぶるEU懐疑論 前途多難な欧州議会
今月2日に開会した欧州議会だが、すでに前途多難の様相を呈している。欧州連合(EU)に加盟する28の国で行われた5月の欧州議会選挙では、いわゆるEU懐疑派が選挙前の予想通り議席を増やした。また、環境問題への取り組みで知られている「緑の党」の躍進も目立つ結果となった。国政選挙ではないものの、イギリスでは長きにわたって二大政党としての役割を担ってきた保守党と労働党が統一地方選で多くの議席を失い、事実上の大敗北を喫した。英国内では政権与党の保守党だが、欧州議会選挙ではまさかの第5党に転落。イギリス以外でも中道政党が軒並み苦戦を強いられる結果となった。「1つの共同体」というEUの理想は、各国におけるEU懐疑派の台頭やイギリスが国民投票で離脱を決めたことによって揺らぎ始めているが、今回の欧州議会選挙で加盟国から多くの懐疑派の議員が誕生したことで、今後はEUの内側からも綻びが出始めそうな気配だ。 【図】欧州難民問題で注目の2つの制度 EUの「一つの共同体」理念揺らぐ
中道右派・左派の主要2会派が過半数割れ
5年に1度実施される欧州議会選挙は、EUに加盟する28か国で投票が行われ、それぞれの加盟国は人口に応じた議席数が振り当てられている。全議席数は751で、750人の欧州議会議員と1人の議長で構成される。 最も多くの議席を持つ国は人口約8200万のドイツ(議席数96)で、それに続くのがフランス(74議席)、そしてイギリス、イタリア(それぞれ73議席)だ。一方で、人口の少ないルクセンブルク、エストニア、キプロス、マルタにはそれぞれ6議席しか与えられていない。イギリスが参加するか否かは、欧州議会選挙前に大きな話題となったが、当初予定していたタイミングでのEU離脱が実現しなかったため、前回同様にイギリスも欧州議会選挙に参加している。 28か国から選出された議員は、政策面で自身が支持する「会派」に所属する。欧州議会では、政治的信条によって所属会派を選択するため、出身国はあまり大きな意味を持たない。最大会派となる「欧州人民党(EPP)グループ」は、キリスト教民主主義や自由保守主義を支持する議員らで構成される中道右派の位置付けだが、今回の選挙では前回の選挙から35議席を減らした。ただ依然として欧州議会内では182議席を擁する最大会派である。 2番目に大きい会派が、中道左派の「社会民主進歩同盟(S&D)」でやはり30議席以上減らして154議席。中道右派と左派の主要2会派で過半数を割り込む結果となった。それにリベラル系でEU支持派の「RE(Renew Europe)」、「緑グループ・欧州自由同盟(Greens/EFA)」と続く。 会派の中には移民排斥を掲げるグループやEU懐疑派も存在するが、自国で行われる国政選挙と比較した場合に、欧州議会がどのような決定権を持ち、それが普段の生活にどのような影響を与えるのかを把握して投票する有権者は必ずしも多くはない。EU懐疑派の力が強まることは、EUの政策(代表例として移民問題への対応など)や共同体内部のさらなる統合・単一市場の推進に反対する勢力が、これまでよりも欧州議会内で発言力を強めることを意味し、新たな法案の審議や通過により多くの時間が費やされるという懸念もある。