くすぶるEU懐疑論 前途多難な欧州議会
右派ポピュリストと緑の党が議席伸ばす
選挙前には投票率の低さも懸念されていたが、投票率は25年ぶりに50パーセントを若干超え、50.95パーセントとなった。決して高い投票率ではないが、2014年が42.61パーセント、2009年が42.97パーセントであったことを考えると、全体で約8ポイント上昇したことになる。欧州議会が英リサーチ会社「カンター・グループ」と共同で行った調査によると、投票率はEUに加盟する21か国で上昇し、そのうち7か国では10ポイント以上の上昇を記録した。 EU関連の機関が集まっているためか、最も投票率の高かった国はベルギーで、88.47パーセントを記録したが、5年前に行われた選挙から約1ポイント減少する結果となった。移民政策などに対する不満から、国内で右派ポピュリスト政党の台頭が目立つようになったドイツでは、前回の48.10パーセントから61.41パーセントに急上昇。国内総選挙で右派政党の躍進が伝えられたデンマークやスペインでも大幅に上昇し、それぞれ60パーセント台半ばを記録した。また、保守強硬派として知られるドゥダ大統領が2015年から政権を率いるポーランドは、5年前の23.83パーセントから20ポイント以上アップした45.68パーセントを記録した。
一方で、投票率が低かった国も存在する。スロバキアの投票率はわずか22.74パーセント。チェコの投票率も28.72パーセントにとどまった。EUから離脱するか否か先行き不透明なイギリスは、5年前の選挙から約1ポイント上昇し、36.90パーセントだった。元イギリス独立党党首のナイジェル・ファラージ氏が設立した「ブレグジット党」が今回の欧州議会選挙で29議席を獲得してイギリスで第1党に躍り出たが、多くの有権者が欧州議会選に関心を示していなかったことが投票率の低さから垣間見える。2017年に行われたイギリス総選挙の投票率は68.8パーセントを記録しており、その差は一目瞭然である。 5年前よりも多くの有権者が投票を行った5月の欧州議会選挙だが、「勝ち組」と「負け組」を分けるとすれば、どのような形になるのだろうか? 獲得した(または失った)議席数でみた場合、「負け組」の筆頭格は、中道右派と中道左派の二大会派だ。中道右派の欧州人民党グループは1989年以降では最悪となる25パーセント以下の得票率にとどまった。中道左派の社会民主進歩同盟も20パーセント強の得票率に終わった。 これまでこの二大会派が欧州議会の中心にいたが、代わって大きな躍進を見せたのが、リベラル色がより強い会派の緑グループ・欧州自由同盟(前回より23議席増)と右派ポピュリストの会派である国家と自由の欧州グループ(ENF、同22議席増)だ。国家と自由の欧州は後述の通り、EU懐疑派の新会派に再編された。欧州人民党グループと社会民主進歩同盟は、それぞれ第1、第2会派の座を維持したものの、リベラル色が極めて強い緑グループと右派ポピュリストの躍進という、これまで予想してこなかった有権者の選択に直面している。