残りの人生をどう生きたいか。“老後を意識した家作り”の基本は「好き」を大切にすること
残りの人生をどう生きたいか
お客様のために空間をデザインするときは「この方は何が好きだろう?」という観点から考え始めます。料理が好きならキッチンとダイニングを、植栽が好きならベランダを、本が好きならライブラリーを中心とした空間設計を考えます。好きなことが楽しめる空間を作っていくことが、その人にとって価値ある暮らしを支えていくと思うからです。 例えば本が好きならば、本棚の前に食卓を配置して、ペンダントライトを吊り下げる。仕事をしながら、コーヒーを飲みながら、過去に読んだ本の背表紙を眺めれば、その空間が本の中に生きる登場人物と共存できる場所となります。音楽が好きならば、照明を暗く、音量を大きくしてジャズを聴けば、その空間はクリス・ボッティがトランペットを吹くBLUE NOTE TOKYOになります。すばらしい空間というのは、過去と今の自分を繫ぐ、時空を超えた場所となるのです。 老後を見据えた家作りをするならば、こうすべきというアドバイスに従うのではなく、「残りの人生をどう生きたいか?」を自分に問うことから始めてみましょう。何が一番大切か、何は諦められるか、何を空間に取り入れたらインパクトがあるか、考えてはメモを取り、理想の写真や空間、素材を見つけるまで、歩いて探索し続けましょう。 We only have one life. いつかきれいにしよう、いつか好きなものを買おうと思っているうちに、人生はあっという間に過ぎていってしまいます。せっかく生まれてきたのだもの。少しだけでもいい、好きに生きていく工夫を始められたら素敵です。
行正 り香