現代日本人に「時」は重要―0.1秒で乗客を捌くSuicaはどのように生まれた?
今では生活に身近になった交通系ICカードや電子マネーカード。その普及に一役買ったのは大都市圏の通勤ラッシュを捌く、JR東日本開発のスイカ(Suica)カードの登場でしょう。 スイカはどのように開発され、時間に追われる現代日本人に受け入れられたのか。時の研究家、織田一朗氏が連載第3回「スイカカードが0.1秒でこなす早業」を執筆します。 ----------
乗り越し精算も瞬時に処理
最近は交通系ICカードの普及が進んで便利になった。運賃表で目的地の駅までの運賃額を探し出し、券売機で切符を買わなくとも、自動改札機の所定の場所に、カードをほんの一瞬かざすだけで、必要な処理を行ってくれる。 代表格のJR東日本の「スイカ(Suica)」カードを例に取ると、駅への入場や、退場だけではなく、定期券での乗り越し精算や、保有額のオートチャージ(入金)も0.1秒でやってのける。鉄道会社をまたがる場合や、オートチャージで金融機関口座からの引き落としが必要な場合でも、足止めされることもなく、変わらない時間で処理するのだから、凄い。 改札口で、カードを読み取り装置(リーダー・ライター)にかざすわずか0.1秒の交信時間の間に、100ファイルに分けられた128バイトのデータから、最大8つのファイルを同時に開き、情報を処理する。定期券での乗り越し精算をするには、定期券区間と乗り越し区間を判別し、乗り越し区間分の運賃だけを引き落とさなければいけないのだが、JR東日本の東京近郊区間には約460もの駅がある。したがって、定期券を使用した乗り越し区間の可能性は460×460/2=10万5800通りになるが、その中から正しい運賃を算定し、金額を引き落とす。 スイカは、「非接触式」カードであるソニーの「フェリカ(FeliCa)」方式を採用しているが、「フェリカ」の特徴は通信距離が数十センチ(電子乗車券の場合)も可能なこと、高速でのデータのやり取りができること、しかも、記憶されている情報が高度なセキュリティで守られているにもかかわらず、通信の際にはひとつのコマンド(命令)で複数のファイルの鍵を開いて同時に処理できるため、処理時間が速いことだ。