DX銘柄2024発表、進行する日本のDX、しかし米国よりもここが足りない!!
DXは重要な経営課題だ。 【もっと写真を見る】
今回のひとこと 「米国企業は、CDOやCDXOを置かない動きが出ている。日本ではCDOやCDXOを懸命に増やしている状況にあるが、米国は次のフェーズに入っている」 「DX銘柄2024」が発表された。 DX銘柄は、経済産業省、東京証券取引所、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の3者が、東京証券取引所に上場している企業のなかから、ビジネスモデルなどを抜本的に変革し、新たな成長や競争力強化につなげるDXに取り組む企業を、DX銘柄として選定している。2015年から「攻めのIT経営銘柄」としての選定を開始し、2020年からDXに焦点をあてた「DX銘柄」に改めて選定している。 DX銘柄2024において、デジタル時代を先導する企業とする「DXグランプリ2024」に選ばれたのがLIXIL、三菱重工業、アシックスの3社。同グランプリを除くDX銘柄2024として22社、「DX注目企業2024」が21社、優れた取り組みを3年以上継続している企業である「DXプラチナ企業2024-2026」として、日立製作所とトプコンの2社が選ばれた。 DX銘柄に選定された企業は、優れた情報システムの導入し、データの利活用をするだけに留まらず、デジタル技術を前提としたビジネスモデルそのものや、経営の変革に果敢にチャレンジし続けている企業であると位置づけている。 DX銘柄2024の選定企業を発表する会の基調講演に登壇した一橋大学CFO教育研究センター長であり、DX銘柄2024評価委員会の委員長である伊藤邦夫氏は「DX銘柄2024の選定企業全体において、回答スコアの水準があがっている。取り組みにおいて差が大きいと思われる項目は前年の11項目から、今年は7項目に減少しているのがその裏付けのひとつとなる。また、DX認定企業と、DX認定未取得企業では、KPIの設定や、挑戦を促す仕組みという観点では大きな差がみられている。さらに、DX銘柄の企業では、PBR2倍以上となっている企業の割合が最も多く、全体の28%を占めている。デジタルガバナンスコード2.0に沿って、DXを実践している企業が多いとも考えられる」と、DX銘柄 2024の結果を講評した。 PoC地獄で疲弊、最初からやるという覚悟を 伊藤委員長は、基調講演のなかで、企業が置かれた経営環境を「総合格闘技」と表現した。 「経営が向き合あうテーマは様々である。DXを中心に、パーパス経営、ガバナンス、人的資本経営、脱炭素、ESGやSDGsなど多岐に渡り、現在の経営は、総合格闘技といえる状況にある」と指摘。その一方で、「デジタル化が進み、働き方改革とジョブ型雇用が進展し、生成AIがリスクとオポチュニティが混ざりあいながら広がっている。これはデジタル化を通じて、社会システムや企業、組織、人材、企業文化を変革すべきチャンスである」とも述べた。 日本と米国の経営手法やITシステムの違いについても触れた。 「米国では新たな経営手法が次々と開発されている。それに対して、日本は、かつての成功体験をもとに、システムの部分最適や複雑化が残り、全体最適化されたシステムへと脱却することができていない。業務にあわせたスクラッチ開発が多用され、カスタマイズが好まれ、システムがガラパゴス化している。しかも、それらが問題なく稼働しているため、経営者もレカジーという意識がない。また、たとえ気がついていたとしても、時間と費用が膨大にかかるため、刷新に着手せずに、経営者が問題を先送りしているという課題がある。経営層のコミットが薄いため、改修して使い続けたほうが安全だと判断する例も多い。デジタル部門を設置しても、経営者は明確な指示を出せない状況にある」と、日本の企業経営の数々の課題をあげながら、「シリコンバレーでは、変えることがデフォルトだが、日本では維持がデフォルトである。この設定の差が、日米の大きな差につながっている」と警鐘を鳴らした。 昨今の状況から、米国企業がさらに一歩進んだ経営を開始していることも紹介した。 伊藤委員長が指摘したのが、「米国ではCDOや、CDXOはいなくなってきた」という点だ。 「以前は、CDOやCDXOが、DXの牽引役を務めていたが、ここにきて、取締役会全体でDXを進めていくという流れがあり、あえて牽引役は置かなくてもいいというムーブメントがある。それがCDOやCDXOを置かないということにつながっている。日本の企業では、ようやくDXに詳しい人を社外取締役として招聘するケースがでてきた。また、日本ではCDOやCDXOを懸命に増やしている状況にある。米国は次のフェーズに入っている」と、日米企業の差を示した。 伊藤委員長は、DXレポートなどを通じて、DXは企業文化や風土を変革することが大事であることを提言してきたが、日本では、そこまで至らず、PoCで留まっている状況が多いと語る。 「日本の企業ではPoCが林立しすぎており、それに疲れてしまっている。『PoC地獄』の状況にある」とし、「PoCの結果がよかったらやるということではなく、最初から、やるという覚悟を決めて実装していかないと、DXは進まない。そして、40代、50代、60代のノンデジタルネイティブを、いかにデジタル変革に巻き込むかが課題である」とした。 また、「DX人材の研修は始まっているが、それがアウトプットにつながり、アウトカムにつながっている例は多くはない」と述べ、「日本では、社外学習や自己啓発を行っていない人の割合が52.6%に達し、世界のなかでも圧倒的に多い。勉強しない日本人と揶揄されている状況だ。これを変えないと人的資本経営といっても意味がない」と、人材育成の課題を示した。 バランスシートに表れない力をどう評価するか 講演のなかでは、人的資本投資に対して、投資家が注目している理由についても触れた。 「投資家は、企業の中長期的な成長力を知りたいと考えている。そのために、バランスシートには現れない無形資産の構築や活用力、社会課題解決力に注目している。具体的には人的資本の育成と活用、DX構想力と活用力、過去からの積み上げではなく、将来の姿からバックキャスティングしたイノベーション創出力が、大切な視点になる。DXをいかにデザインし、それを経営にいかに実装するかといった点を、投資家との対話に反映させ、統合報告書のなかで、いかに価値創造ストーリーとして、説得的に語れるかが重要である」とした。 調査によると、人材投資やデジタル投資に関して、投資家と企業の間には、認識に大きなギャップがあり、企業は投資に踏み切れていないという結果があるという。 また、DXへの取り組み状況を投資判断に活用している投資家は48%に達しているが、企業から提供されているDXに関する情報が不足していると感じている投資家が多く、なかでも、「DXの取り組み状況」や「成果を把握するための客観的評価指標」、「DXを推進する専門人材の獲得・育成に関しての情報提供」に対する満足度が低いという。 伊藤委員長は、「2023年が人的資本情報開示元年であったのに対して、2024年はレベルアップした情報開示がみられることになる」と前置きし、「投資家が人的資本情報に関心が高い理由は、企業が打ち出した中期経営戦略やビジネスモデルが実現できるのかどうかを推し量るためである。絵に描いた餅になっていないことを確認するためである。これまでは、中期経営戦略の実行を担う人たちの情報が開示されていなかった。それがやっと開示されるようになった」と述べた。 日本のDX化は確実に進んでいるが、米国はさらにその先 DX銘柄2024の選定企業のスコアが高まっていることや、日本においてもDXの成功事例が紹介される機会が増えるなど、日本のDXは着実に進展しているのは間違いない。こうした状況は、IPAがDX銘柄2024の発表にあわせて発行されたレポートのなかでも触れられており、DX推進に関する経営ビジョンやビジネスモデル、戦略をはじめとしたDX成功のポイントが示されている。 だが、伊藤委員長が指摘するように、米国企業の経営スタイルは、すでに一歩先に進み、日本企業はPoCの繰り返しのまま、実装に踏み出せていない企業がまだまだ多いのも事実だ。日本のDXをより加速するためには、まだまだ経営の意識改革が必要だといえそうだ。 文● 大河原克行 編集●ASCII