京の街はRPG!伝えよう攻略ルール:オーバーツーリズムを超える秘策とは
到着前に知らせたい「攻略ルール」
まず関西国際空港に到着前の機内で京都観光をRPGに見立て、クリアすべき対象や参加ルールをモニターで流すのはどうだろう。魔界都市・京都への期待もいや増すはずだ。「ルールブック」として楽しみ方を記した京都の攻略本が新しい産業になるかもしれない(いつでも執筆します!)。 その上で、街の美観保護のコストを賄うために、祇園や嵯峨野に電子マネーで寄付できる機器を設置する。英国の大英博物館は入場無料だが、お気に召したら寄付をしてくださいと呼びかけている。素晴らしいものを無料で提供する大英帝国のプライドがロンドンのファンを増やす。せこい二重料金などは導入せずに、「京都ゲーム」が面白ければ「課金」に応じてください、としたほうがお互いに気持ちいい。訪れた人も観光パッケージからは見えてこない体験ができるはずだ。 と、ここまで来ると、冒頭に挙げた京都の二つの課題──「どうやって観光客の数を制限して、“観光公害”をなくすか」と「いかにして観光客にお金を落としてもらうか」──が、どちらも的外れであると思えてくる。 問題は観光客の数ではない。仮に「オーバーツーリズム」が行政や交通機関の対策である程度解消できたとしても、ルールを知らないゲーマーがわずかでも混じっていると台無しになる。逆に、大勢のゲームの達人でプレイすれば、楽しみも増すはずだ。そして、下品な二重料金を設定するより、楽しんだゲーマーにおのずと課金に応じてもらえる方がいい。 オーバーツーリズムの問題は、観光客の数と短期的なマネタイズの観点で見ても解決はしない。大切なのは互いの生活の営みを知り共有すること、要するに量ではなく質の問題なのだ。
チャップリンは知っていた
京都のルールを知った上でプレイし、独自の体験をすること──実はチャップリンはその楽しさをよく分かっていた。京文化を深く理解していた彼は、東京では好んで食べた天ぷらを、京都では食べずに京懐石を堪能した。観光パッケージを台無しにした想定外の雨でも、彼はそこに日本の美を見つけた。なんの変哲もない銭湯に興味を持って、町の人の生活に溶け込んだ。そして、そこで彼が見いだしたのは、自らの故郷であるロンドンで過ごした少年時代のことだった。そう、ここは妙なルールでゲームを進めていくと、最後に自分のルーツにたどり着ける街なのだ。京都は多くの人にとって故郷を感じさせる場所だからこそ人が集う。 オーバーツーリズムという「数」と「お金」だけに目を奪われると、ことの本質を見失う。京都の観光をめぐる問いかけは、実のところ、人間らしい営みの根元を問い直すことなのだ。
【Profile】
大野 裕之 脚本家・日本チャップリン協会会長。1974年大阪府生まれ。京都大学入学を機に上洛、京都大大学院修了。以後も京都を拠点に演劇、映画づくりを続けている。脚本・製作の映画『太秦ライムライト』はファンタジア国際映画祭(カナダ)で最優秀作品賞。著書の『京都のおねだん』(講談社)では京都人の思考や人生観について記した。『チャップリンとヒトラー』はサントリー学芸賞。最新刊は『チャップリンが見たファシズム』(中公選書)