9月米雇用統計上振れで0.5%利下げ観測が後退:1ドル149円の円安で石破政権の日銀金融政策についての発言に変化が生じるか
FRBの利下げ観測は揺るがない
しかし、FRBの金融緩和が続くとの見方は維持されている。米シカゴ地区連銀のグールズビー総裁は雇用統計について、「素晴らしい」と評価した上で、こうした報告がさらに続けば、米経済が完全雇用と低インフレの状態にあるとの自信が高まる、との見方を示した。それでもグールズビー氏は、雇用市場は幅広い指標から見て冷え込んでおり、インフレ率がFRBの目標をアンダーシュートする兆候さえあると指摘した。そして、政策金利は大半の当局者が想定する均衡水準をはるかに上回っており、今後12~18か月で大幅に引き下げられる必要がある、と話している。 雇用統計を受けてダウ平均株価は大幅に上昇し、前日比341ドル高となった点が注目される。従来であれば、強めの経済指標の発表は、FRBの利下げ期待を後退させ、株価にはマイナスに働くことが多かった。しかし、FRBの利下げ姿勢は変わらないとの強い期待が市場に形成される中、強めの経済指標は米国経済の悪化懸念を緩和させ、株式市場にはプラス要因に働くようになっている。
円安を受けて日本銀行の金融政策に関する政府の発言に変化が生じるか
日本銀行は9月の金融政策決定会合で、追加利上げを急がない姿勢を明らかにした。その際に理由として挙げたのは、円高による物価見通し上振れリスクの後退と米国経済の下振れリスクの2つだった。今回の雇用統計によって、この2つの追加利上げの制約要因がともに和らいだことになる。 他方で、石破新政権が日本銀行に追加利上げに慎重な姿勢を期待する発言を繰り返したことで、追加利上げのハードルは一定程度上がったとみられる。雇用統計を受けても、こうした政治的な要因によって追加利上げは当面制約を受けるとの観測は大きくは変わらず、日本銀行が年内に追加利上げを行う可能性は引き続き低いと考えられる。 ただし、為替市場が円安に振れ、再び物価高圧力が高まることは、国民生活を圧迫する。選挙を目前にして、政府としてもそれは望ましいことではない。為替市場が再び円安に振れていることを受けて、日本銀行の金融政策に関する政府の発言に変化が生じるかどうかに注目しておきたい。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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