インバウンド需要で「シニア求人」が急増中。高齢者の活用はオーバーツーリズムの解消につながるのか
シニアの戦力は意外に高くても数は揃わない
残念ながら、いくら即戦力のシニア人材を多数、送り込もうとしても、オーバーツーリズムを大きく変える結果にはならないだろう。なぜならば、若者よりも人口が多そうなシニアとはいえ、有能な経験者の数はそう多くはなく、ミスマッチが起きるからだ。 日本の旅行・観光業を構成する法人の多くは小規模だ。一部にはもちろん、大手ホテルグループや大手旅行代理店、大手タクシー会社などがあるが、小規模・零細事業者出身シニアの場合、そもそも大手の求人には興味を持ちにくく、大手が中途採用する場合にも再教育のコストが高くつきやすい。 例えば、田舎の小さな家族経営の民宿のオーナーを思い浮かべてみよう。料理の腕も、接客のホスピタリティも高いかもしれないが、数十人分の料理を作るホテルレストランの厨房とは求められるスキルが異なる。そもそも小さな民宿のオーナーが宿を閉じる時はいよいよ限界のタイミングであり、そこから再就職などしないだろう。 実際、私たちがシニア料理人の人材紹介を行う中でも、腕が一流なだけでなく部下の採用にも十分な経験のある料理長候補のシニアについては、コロナ禍からの日常回帰の序盤で一度枯渇しかけた。現在はまた転職希望者の確保が進んでいるが、企業が求めている経験・スキルを持った人材が無尽蔵にいるわけでないことには注意が必要だ。 シニアであっても再教育しなければならないとすれば、未経験・経験の浅い若手や外国人に対するシニア人材のアドバンテージはなくなる。それとともに、教育や修行の期間を経ずに、採用から短期間で訪日観光客対応の最前線を任せるといった運用はできないということになる。 完全な即戦力でなくても、例えば外国語に堪能なシニアなど、異業種出身者に多少のリスキリングを提供して、観光業に就業してもらえばいいのではという発想もあるかもしれない。だが、能力や経験のあるシニアがいても、求人が多い職種に就きたいわけではない。 これは外国語に堪能なシニアだけでなく、タクシーやバスのドライバー、料理人でも見られる現象だ。特にタクシードライバーについては、過去に私たちが行った調査で、転職サイトに登録しているタクシー乗務経験のあるシニアの100%が「タクシー乗務はもうやりたくない」「他の仕事に就きたい」と希望する結果が出た。