イエメン、「幸福のアラビア」いつの日か(3) ~イエメン各地に存在する戦争の火種~
今も残る南北対立という名の火種
マハラで発生した衝突から数日後、いつものようにホテルにチェックインして皆でニュース番組を眺めていると、耳目を疑うようなニュースが飛び込んできた。 南部の都市アデンにおいて南部暫定評議会(以下、独立派)が暫定政府の大統領施設を占拠。さらにそこから東部に位置するアブヤン州やシャブア州への武力介入を宣言したというのだ。これに対し国連は非難声明を出したが、独立派は武力介入を強行。シャブアにおいて独立派と暫定政府軍との大規模な戦闘へと発展したという。 ムハンマドの話によると、独立派は長年UAEが支援してきた組織。今までサウジが支援する暫定政府と、対フーシ派という点において協調路線をとってきた。UAEは表面的にはサウジと協調しているが、長年アデンをはじめとしたイエメンの南部沿岸地域の利権を得るため、独立派を利用して内戦に介入していたという。 それにしても、なぜUAEはイエメン南部に介入し続けているのだろうか。そしてこの戦闘は今後どうなってしまうのだろうか。ムハンマドが話す。 「イエメン南部はアラビア海に面している。アデン港、ムカッラ港、ニシュトゥン港などは海運の要衝であり、地政学的に重要な地域だ。実際、ムカッラ州にある国内最大の空港、ライヤーン空港は現在UAE軍の拠点で、マハラ州にあるガイダ空港はサウジ軍の拠点となっている」 「もしこの戦闘で独立派が暫定政府軍を倒したらイエメンは終わりだ。一気にイエメン東部地方に進軍、支配し、イエメンは再び南北に分断してしまうだろう。フーシ派もそれを望んでいる。だがそれはイエメン市民にとっては最悪のシナリオだ」 少し説明が必要だろう。現在のイエメン共和国は1990年5月、南イエメン(イエメン民主人民共和国)と北イエメン(イエメン・アラブ共和国)が統一してできた。 しかし、1994年に南北対立が再燃し内戦になるなど、南北分断の危機に直面した過去があり、今も北部と南部の間には対立構造が残っている。そして、UAEは南部の独立機運を利用して南部沿岸部の利権を得ようと画策している。 日本のメディアが、イエメンへの空爆に対する国際的な批判の高まりやイランとの緊張感の高まりから、UAEが5000人の部隊の大部分をイエメン南部から撤退させたことが、今回の独立派の武装蜂起の背景にあるのではないかと伝えていた。 しかし、現地のイエメン人からすると、表面的に部隊の大半を撤退させているかのように見せているだけだという。 「今まで執拗に南部に介入してきたUAEが、そんなに簡単に南部の利権を諦めるわけがない。水面下で何か行っているに違いない」 その後の報道では、暫定政府軍が独立派との戦闘に勝ち、再びアデンに進軍した際に、UAEが戦闘機で暫定政府軍を空爆して約300人の死傷者が出たという内容のものがあった。それに対し、UAEはこの空爆は過激派組織に対する攻撃であって、暫定政府軍に対するものではないとしている。しかし、現地の人々は口を揃えて言った。「それは明らかな嘘だ」と。