「大手外資系エリート」を名乗ってベンチャー企業をカモにするケースが急増中…その「巧妙な手口」
泣き寝入りするしかない
しかも、誰かをクビにしたことがある経験者も社内にいなかったりします。なので、相手が騒ぐと、折れてしまいます。しかも報酬の原資は自分たちが汗水流して稼いだ利益から出すのではなく、期待見込みで投資家からまとまった額をボンと入れられたものなので、金銭感覚が少しズレてしまいがちにもなります。 そうした事情につけこみ、おかしいと気付いても正面切って喧嘩することを嫌がったり評判に傷がつくのを過剰に嫌がったりする会社が多いこと、ベンチャー企業が次から次へと誕生し、知名度を上げるためにプレスリリースを出したりするのでターゲットとしての存在がバレやすいことを、巧みに利用しています。 このようにBRSは自分の詐欺師の能力が活かせるターゲットを的確に見定めているわけです。結局、雇った会社はやがて騙されたと分かっても、いわゆる人材エージェントを挟んでいるわけではなくマッチングプラットフォームを使っているので、「問題人物を紹介しないでくださいよ」と責める相手もいないということになってしまいます。合意の上で契約しており、自分たちの落ち度でもあることを恥じて、泣き寝入りするケースも多いのではないでしょうか。 もちろん裁判で争う選択肢もありますが、弁護士への報酬や訴訟費用を考えれば、裁判で勝てたとしても被害の事実についてほかの会社と共有することもやりにくくなってしまいます。結局、被害届を出すに至らない本家ロマンス詐欺と同じです。 ここまで読み進めてこんな疑問を持つ読者もいるかもしれません。前に書いたようなBRSの「実行犯」は口八丁手八丁で頭が切れる人なのでしょう。そんな人が数ヵ月かけて100万円や200万円をせしめるのは、ある意味コスパが悪いのではないかと。
業務委託の大きなリスク
BRSの実行犯をこうイメージしてみましょう。月給30万円くらいで在宅勤務メインの、要求水準も管理も緩い会社で正社員…が、月10万-20万円くらいの「小遣い」を3社くらいからもらっている、と。確定申告で経費を積んで収入をうまく圧縮していれば手取りも増え、月給100万円を稼ぐ会社員よりも、時間的にも金銭的にも余裕があることでしょう。「実行」に移す上では充分損得勘定が合います。犯罪スレスレの行為を「副業」にできる時点で、並大抵の神経の持ち主ではないと思いますが。 業務委託という言葉で「優秀な人を安く使える」「都合の良い時だけ大企業や信用のある会社のネットワークを利用できる」と安易に捉えると、痛い目にあうリスクがあるというのが、令和の新しいトラブルの一形態です。これはベンチャー企業に限らず、業歴が長くとも人材不足に嘆いている中小企業にもいつでも起こりうることでしょう。 労働人口は減り続け、優秀な人材は限られています。業務委託や副業人材の活用は、業務改善には必須です。システマティックな業務委託体制が整えられない中小やベンチャーでは、相手を信用して仕事を依頼するという属人的な判断が求められます。伴うリスクと天秤にかけることを忘れないよう、担当している方々はくれぐれもご注意ください。
中沢 光昭(経営コンサルタント)