新幹線開業60年(3)路線拡大に暗雲:リニアは工事難航、北陸はルートの議論再燃
北陸新幹線、「小浜・京都ルート」変更を求める声も
今、議論が再燃しているのは北陸新幹線・敦賀―新大阪間のルート問題だ。同区間は2016年に与党整備新幹線建設プロジェクトチームが「小浜・舞鶴・京都ルート」「小浜・京都ルート」「米原ルート」の3案を比較検討し、利便性、速達性が高く、JR西日本の支持する「小浜・京都ルート」に決定した。当時の想定は工期15年、30年以降に着工し46年ごろの開業を予定していた。 鉄道・運輸機構は2019年に環境アセスメント調査に着手したが、既設線路や周辺構造物と近接・交差する京都駅や新大阪駅の施工難易度が高いこと、地下水対策や大量の残土処理が必要なことが判明。国土交通省が与党に対して今年8月に示した京都駅付近のルート3案は工期が20~28年程度、新大阪駅付近の工期も25年程度で、最短でも50年代の開業となる。 整備新幹線の着工には「安定的な財源見通しの確保」「収支採算性」「投資効果」「営業主体としてのJRの同意」「並行在来線の(JRからの)経営分離についての沿線自治体の同意」の5条件を必要とする。その中でも、建設費など費用と、時間短縮効果などの便益の比率である費用便益比(B/C)が1以上であることが特に重視される。 2016年の試算では小浜・京都ルートは総事業費約2兆1千億円、B/Cは1.1とされたが、ルート決定から8年が経過し、物価や人件費の上昇で小浜・京都ルートの総事業費は倍以上、B/Cは0.5程度になる見込みとなった。現行の仕組みでは着工条件を満たせないため、関西で強い政治的影響力を持つ日本維新の会は、事業費増加を加味してもB/Cが1を超えるとみられる米原ルートへの変更を求めている。 並行在来線問題も未解決だ。原則に従えば敦賀―新大阪間で経営分離の対象になるのは特急「サンダーバード」が走る湖西線になる。新幹線が県内を通らないのに在来線運賃値上げなどの不利益を被る形になる滋賀県や沿線自治体はこれに反対し、着工条件となる同意が得られるか不透明な状況だ。